プロ野球亭日乗BACK NUMBER
炯眼の勝負師・落合博満監督に、
ただひとつ足りなかったもの。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byKYODO
posted2011/10/04 10:30
昨季までの7年間、中日の監督としてリーグ優勝3回、日本一1回の成績を収めた。後半好調の今シーズンも1位ヤクルトの背中を射程圏内にとらえている
できなかったのか、できるのにしなかったのか……。
「勝つことが最大のファンサービスだ」
こう語ることで、情報を閉ざし、言葉を閉ざしてきた。
「理にはかなっているけど難しい」
選手に対するのと同じように、ファンやマスコミ、関係者をも突き放した。すべての不満の発端は、その回路を閉ざしたことにあるように思う。
プロ野球はスポーツである。
ただ、もう一つ、マスコミを媒介としたファンを相手にする興業という側面も併せ持つ。
お客様は神様だから、何でもかんでも、監督や選手はファンにサービスしなくてはいけないというつもりは毛頭ない。ただ、戦術に関して語れるのは唯一、監督だけだというのも動かせない事実なのだ。チームの情報を掌握して、公表する権限を持つのも監督ただ一人である。逆に考えれば、監督が情報をきちっと整理して、公表することでチームや選手を守ることもできるわけである。そういう意味では監督は唯一、チームのスポークスマンにもなり得るし、そうならなければならない立場なのである。
それをできなかったのか、できるのにしようとしなかったのか……。そうしながらでも優勝争いのできるチームを作り動かすだけの力がある監督だったはずだ。
それだけに何とも惜しい気持ちだけが残った。