プロ野球亭日乗BACK NUMBER
炯眼の勝負師・落合博満監督に、
ただひとつ足りなかったもの。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byKYODO
posted2011/10/04 10:30
昨季までの7年間、中日の監督としてリーグ優勝3回、日本一1回の成績を収めた。後半好調の今シーズンも1位ヤクルトの背中を射程圏内にとらえている
ブランコの起用にみる、落合監督の類まれな洞察力。
落合監督の凄みは、野球に対する類まれな洞察力にある。
典型的な例は今季のトニ・ブランコ一塁手の起用の仕方だった。開幕から不振にあえぐブランコを、落合監督は6月4日から約2カ月間の長きにわたって二軍に落とした。チーム状態が決して良かったわけではない。むしろどん底だった。しかも代役として一軍に登録していたジョエル・グスマン外野手は打率1割台とブランコ以上の低空飛行を続けていた。
しかし、落合監督の視線は、先にあった。6月の当時、抜け出していたのは優勝経験のある選手が少ないヤクルトだった。しかも開幕が約2週間遅れた今季は9月以降にも35試合以上の試合を残している。
じっくりとそこに向けて調整させたのだ。2カ月のキャンプで作り直させて、勝負どころで切り札として投入した。8月30日に再び一軍に上がったブランコを、迷うことなく4番で起用した。そしてこの4番が機能したことが、中日のラストスパートにつながっている。
プロでも簡単に見抜けない野球の奥深さや怖さを熟知する。
彼我のチーム力や、選手個々の状態と持っているポテンシャルを見極める力、試合の流れを読んで勝利への道を探す探求力、そして144試合という長丁場を踏まえた上でシーズンを展望して優勝への道筋を築くコンストラクション力……。この監督は表面的には見えない、プロでもなかなか見抜けない、野球の奥深さや怖さを見抜く力に長けている。その洞察力にかけては、12球団の監督の中でもトップクラスにあることは間違いない。
だからシーズン終盤には必ずチーム力が上がってくる。ここ数年の中日の特長は、この監督の洞察力から導き出されるものだといえよう。その結果が、就任以来7年連続Bクラスなしという結果として残っているわけだ。
だが、それだけ野球を動かすことに長けた監督でも、就任8年をもって職を辞さなくてはならなくなった。9月22日、中日は今季限りで契約の切れる同監督の退任と、来季監督にOBの高木守道元監督の復帰を発表した。
すでに様々なところで今回の退任劇の裏側は報道されているので、読者も経緯はご存じだと思う。
勝利至上主義の落合野球は「つまらない」と言われ、近年はナゴヤドームの観客動員が著しく低迷している。ファン離れだけでなく地元財界との軋轢もささやかれ、親会社の中日新聞社内でも販売、営業部門から突き上げがあった。外様コーチを重用してOBからの批判も噴出していた。
だが、本質は一つである。
理由は落合監督の言葉が少ないことだった。