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大震災とプロ野球。
ある首位打者が辿った険しい道。 

text by

中村計

中村計Kei Nakamura

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photograph byHideki Sugiyama

posted2011/10/03 11:50

大震災とプロ野球。ある首位打者が辿った険しい道。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

星野監督から楽天の初代キャプテンとして活躍を期待されていた鉄平。「神風ワンダーボーイ」は復活できるか?

 稀代のヒットメーカー、楽天の鉄平が今季、長いスランプに陥った。

 その理由を考えたとき、シーズン前、鉄平が話していたこんなセリフが真っ先に思い浮かんだ。

「横浜で『楽天の選手だ』って言われるのはビッグネームの人だけですよ。それ以外はそうそう気づかれない」

 東日本大震災の5日後、楽天の選手たちは横浜から名古屋へ移動するために大阪方面行きの新幹線に飛び乗った。が、満席で選手たちの多くはデッキで立っていたというので、騒がれませんでしたか、と尋ねたときのことだ。

「今は野球をしているときではないんじゃないか」

 念のために言っておくが、鉄平は'09年のパ・リーグの首位打者である。

 見栄を張って嘘をつく必要もないが、そこまで正直に自分の全国的な知名度の低さを暴露しなくともいいのにと思ったものだ。

 震災直後も、そんな素直さゆえ鉄平は人一倍、被災地の人に感情移入し、動揺しているように映った。

「今、シーズン中、僕らが10何点差で負けてるときも声を枯らして最後まで応援してくれた人たちが辛い思いをしている。だから、いちばん最初に思ったことは、野球選手としてというより、一人の人間として何をすべきかということでした。そこで出た答えは、今は野球をしているときではないんじゃないかということでした」

 セ・リーグが通常通り3月25日の開幕を推し進めていることに対しどう思うかと尋ねると、あの温厚な鉄平が、そのときばかりは小さく声を荒げた。

 鉄平は「経済活動を停滞させてはならない」といった長期的かつ冷静な、でもどこかそろばんずくな印象も拭えない大人の言葉は一切使わなかった。

一本気な正義感を持つ鉄平は、今のプロ野球界で生きていけるのか。

「僕らは野球がうまくなるためだけに野球をやってきたわけじゃないんです。誰かが何か困っていたら、それがぜんぜん知らない人であっても、助けてあげるとか、一緒に力を合わせるとか、そういう気持ちになれるような訓練を野球を通してしてきたんです。だったら、今やらなかったら、いつやるんですか」

 こういう一本気な正義感を、プロ野球という生き馬の目を抜くような世界で、28歳になるまで持ち続けているということに新鮮な驚きを覚えた。

【次ページ】 「プロ野球が一致団結したら、本当にすごい力になる」

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