なでしこジャパンPRESSBACK NUMBER
なでしこジャパンが中国に貫禄勝ち。
五輪予選で獲得した新たな武器とは?
text by
河崎三行Sangyo Kawasaki
photograph byTamon Matsuzono
posted2011/09/12 11:35
主力選手を温存しつつ、巧みな戦術で中国を破った佐々木則夫監督。「(若手中心の先発だったが)ひとりひとりの特徴は出ていた。個々の力を見極めたいという中で勝てた。及第点ではないか」と試合後に満足気なコメントを残している
なでしこが持つ弱点は、果たして解消されたのか?
今大会でなでしこジャパンが得られた大きな収穫のひとつに、この中国戦でも見せた守備の安定、特にリトリートしてもきっちり守り切れたことが挙げられるのではないか。
女子W杯から続く心身の疲弊。中1日あるいは中2日の試合という五輪予選の過密スケジュール。これらを考えれば、敵陣から積極的にプレスをかけてボール奪取するなでしこのお家芸は、あまりに体力を消耗しすぎる。そこで日本は今大会、体力的に厳しい時間帯や敵に押し込まれている流れの中では意識的に守備ブロックを下げ、あえて相手に攻めさせてカウンターを狙った。
これまでのなでしこは、プレッシングによる積極的な守備ができているうちはいいが、自陣に押し込まれると耐え切れずに失点を許してしまうことが多かった。それがこの五輪予選では自ら(もちろん、監督の指示による場合が多いのだが)リトリートしての守備を選択し、注文通りいなし切って勝ち点を積み上げたのだ。確かにちょっとしたミスからの失点がふたつほどあったが、それでも五輪出場権争いの上での致命傷にはしていない。
守備面での新たな武器こそが、五輪予選最大の収穫か。
五輪やW杯といった長丁場では、どうしてもチームコンディションのアップダウンがある。ドイツで世界一に輝いたといっても、まだまだ日本より格上の国はある。そうした状況を考えた時、全ての試合の全ての時間帯でなでしこの身上である攻撃的守備ができるはずはない。とすれば、次善の策を用意しておくのは当然だ。
中国戦後、守備の統率者である岩清水は
「今大会では、敵にボールを回されたとしても最後のゴール前では自由にやらせない、というシーンを作れていたと思います。リトリートしての守りでも踏ん張れるという自信がついたので、これをひとつの引き出しにしていきたい」
と手応えを口にした。
控え層の底上げの急務など、課題も浮き彫りになった五輪予選だった。しかし大会前、そして大会中の苛酷な環境によって日本が守備面の新たな武器を手にできたことは、思わぬ収穫だった。