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なでしこが耐えに耐え、五輪を確保!
北朝鮮戦ドローに見た「底力」。
text by
河崎三行Sangyo Kawasaki
photograph byTamon Matsuzono
posted2011/09/09 11:50
試合終了の笛を聞いた直後の澤穂希。試合後に「絶対に勝てたと思う試合なので、自分たちのミスで失点してしまったのはすごく悔しいです。ピッチコンディションも良くなくて、焦って蹴ったりして自分たちのペースがつかめなかった」と吐露した
北朝鮮戦にあたり、日本の佐々木監督はチームに次のような策を授けた。
「相手の速く、単調なパス回しのテンポに付き合ってはいけない。そうすると必ず、狭いところでガチャガチャしたボールの奪い合いになって、球際に強い北朝鮮に取られてしまう。前へ前へと急ぐのではなく、一度タメを作ったりサイドに展開したりしてテンポの緩急をつけ、自分たちのリズムで仕掛けていくように」
だが宮間が、
「相手に合わせないようにしっかりつなごうと思っていたが、うまくいかなかった」
と試合後に振り返ったように、それをうまく遂行できたという手応えは選手たちにはなかったようだ。
確かに決定機の数はこれまでの3戦に比べて少なかったので、自己評価が厳しくなるのはわかる。だが自陣からミドルゾーンに至るまでのビルドアップに限っては、監督の要求からさほど外れたサッカーをしていなかったのではないか。特に前半は澤、宮間、阪口あたりが展開に緩急をつけ、サイドチェンジも織り交ぜて、監督が、
「(アタッキングサードへ行くまでの)準備の段階はよかった」
と評価した通りの組み立てができていた。
しかし、そこから先の崩しの段階でパスミスを連発。会場の芝が深く、ピッチもぬかるみ気味だったことも要因のひとつだが、何より相手のプレスが予想以上に厳しかったことが、なでしこのサッカーを狂わせた。
日本のサッカーを封じるため激しくプレスをかけ続けた北朝鮮。
北朝鮮のシン・ウィグン監督は言う。
「日本のショートパス中心のサッカーを封じるため、我々はスペースに対しても人に対しても激しくプレスをかけた。そしてそれは効果的だったと思う。今日の試合が引き分けに終わったのは残念だ」
北朝鮮は女子W杯でのドーピングで、5人の主力選手が出場停止処分を受けている。この五輪予選の期間中、報道陣から北朝鮮の戦力ダウンについて水を向けられた時、佐々木監督は、
「北朝鮮はクローンのように次から次へといい選手が出てくる。主力が抜けているからといって決して油断はできない」
と気を引き締めていた。
クローンとはまさに言い得て妙で、日本戦に登場してきた新顔の選手はやはり、これまでの北朝鮮選手と同様の特長を持ち合わせていた。走れて、当たりに強く、技術もしっかりしている。そうした選手の試合全体を通じての絶え間ないプレスによって、北朝鮮陣内では日本のパスが正確さを欠くことになった。
そしてまたパスを出した日本の選手がそのまま走り続けて受け手に回る動きも影を潜め、敵陣での預けどころの選択肢も狭まっていたのである。