スポーツ・インサイドアウトBACK NUMBER
プレミアリーグの不易と流行。
~ユナイテッド4連覇の可能性~
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byGetty Images
posted2009/08/21 11:30
リーグ4連覇を狙うマンチェスター・ユナイテッドのファーガソン監督
今季もプレミアリーグが始まった。チェルシーがハルに逆転勝ちを演じ、アーセナルはエバートンに大勝した。リバプールこそトッテナムに取りこぼしたものの、派手な補強で話題を呼んだマンチェスター・シティは敵地で勝利を収め、王者マンチェスター・ユナイテッドも順調な滑り出しを見せている。
実をいうと、ジョゼ・モウリーニョがチェルシーを追われて以来、私は以前ほど熱心にプレミアの試合を見なくなってしまった。モウリーニョは魅力的な惑星だ。太陽とはいいがたいし、主役を張るスターというにはちょっと足りない部分もあるのだが、彼ほど楽しい悪役はいないし、アクが強いのに頭が切れて愛嬌のあるあのキャラクターは、単なる悪役の域を大きく超えている。
ま、死んだ児の歳を数えても仕方がない。モウリーニョは、当分イタリアに残ることになるだろう。もしプレミアに戻ることがあるとしたら、今度はアレックス・ファーガソンの後継者としてユナイテッドの監督になるのではないか。そうなったらなったで、私はきっとユナイテッドびいきに走るはずだが、これは、あるとしてもかなり先の話だ。とりあえずは、幕を開けたばかりの09/10シーズンの行方を占ってみよう。
C・ロナウドとテベスが抜けた穴を埋められるか。
なんといっても気になるのは、王者ユナイテッドの4連覇が可能かどうかだ。
C・ロナウドとテベスという2大得点源を失ったことで、今季のユナイテッドはけっして評価が高くない。DF陣に故障者が相次いでいることや、今年5月のチャンピオンズ・リーグ決勝でバルセロナに嫌な負け方をしたことも評価を下げた一因だろう。
ただこのクラブには、大きな穴があくとそこをすかさず埋めるという不思議な伝統がある。カントナが去ったあとにはベッカムが台頭したし、ベッカム退団の穴は急成長したロナウドが埋めた。
今回の有力候補は、ウィガンから獲得したサイドアタッカーのバレンシアと18歳のFWマケダではないか。まだ粗削りの部分は多いが、このふたりには伸びしろがある。ファーガソンは、ロナウドの後継者を待望するのではなく、新たな化学変化の出現を待っているような気がする。30歳のオーウェンを獲得したのも、マケダが成長するまでのつなぎ役が必要と考えたのではないか。
ユナイテッドの4連覇を阻止せんとするライバルたち。
というわけで私は、一見地味になったユナイテッドが層の厚さを見せて通算19回目の王座につくのではないかと踏んでいる。ただ、展開は楽ではないはずだ。新監督にカルロ・アンチェロッティを迎えたチェルシーは、戦力的に大きな穴をあけなかったし、シャビ・アロンソを失ったリバプールも、グレン・ジョンソンやアクイラニを補強して20年ぶりの王座返り咲きを狙っているからだ。
もっとも、4強の一角を担うアーセナルだけはさすがに苦しい。スターを放出したクラブがかえって強くなるケースは珍しくないのだが、アデバヨールとコロ・トゥーレのアフリカ人コンビがそろってライバルのマンチェスター・シティに移籍したダメージはやはり大きい。好調な立ち上がりは期待を抱かせるが、シーズンの中盤から後半にかけては、この損失がじわりと効いてくるのではないか。逆にいうと、4強の一角にシティが割り込んでくる可能性は十分にあると思う。