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NBAの頂点に立つビリオネアに学ぶ、
プロチームのオーナーの資質とは?
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byNBAE/Getty Images
posted2011/06/26 08:00
ホームコートであるアメリカン・エアライン・センターへ凱旋したマーク・キューバン。今年52歳になるキューバンだが、大学時代に起業して折からのITバブルにのって巨万の富を築いた、アメリカの新しい時代の実業家である
2001年の春、はじめてダラスに降り立った。ダラスに行った目的は、Number519号の取材で、ダラス・マーベリックスのオーナー、マーク・キューバンにインタビューするためだった。
約束の時間になっても取材が始まらず、メディアの食堂で、手持ち無沙汰だったからホットドッグを食べたのを覚えている。
取材が始まってみると、「変人」と言われていたオーナーの噂が一面にしか過ぎないことが瞬時に分かった。
「自分が部屋に入っていったら、そのなかでいちばんスマートでないと気が済まない性質なんだ」
「NBAにはたくさんビジネスチャンスが転がっている。いままで各チームが最善の努力をしてきたとは言い難い」
「いつかチャンピオンチームを作る。それがオーナーとしての最大の夢」
記事のタイトルは「ビリオネア、最高の道楽」。自分が書いてきた記事のなかでも、気に入っている一本だ。
あれから10年、ついにマーベリックスがNBAの頂点に立った。個人的に、感慨深いものがある。当時はまだ42歳だった若きオーナーに話が聞けたことは、自分にとって大きな財産になっている。
若きオーナーの情熱と資金力が弱小チームに「プライド」を与えた。
この取材から、私はオーナーに対する見方が変わった。
オーナーとは単なるお飾りではなく、熱意さえあればチーム強化の先頭に立つことが出来るのである。
マーク・キューバンは1999年にBroadcast.comをYahoo!に売却し、ビリオネアとなった(ちなみにForbes誌の2011年版の長者ランキングでは、世界で459位にランクイン)。その資金を元手に、大統領選挙に出馬した経験を持つロス・ペローの息子からマーベリックスを買い取ったのである。なんとも羨ましいお金の使い方だ。