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小野寺歩 心に響いた励まし。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
posted2006/03/09 00:00
今大会で鮮烈な印象を与えたカーリング日本代表チーム。スキップ(主将)としてチームを引っ張ってきたのが小野寺歩である。試合の中では戦術を組み立て、「イエス!」「ウォー!」と声をかけ続けた。大会を終えて2日後。試合中の豊かな表情と同様、ときに笑い、ときに涙ぐみながら、激闘を振り返った。
──大会前半は調子が良くなさそうでした。3敗目のデンマーク戦後、涙も流した。
「あの試合は自分のミスで負けました。日本を背負って五輪に出させてもらっているのに、自分のせいで日本に黒星をもたらしたのが本当に申し訳なかった」
──そこから立て直しました。
「デンマーク戦後、林(弓枝)さんと投げる順番を変わりたいとコーチに提案したんです。そのとき応援団の方と話す機会がありました。『技術はもっているのだから思い切り行きなさい』と励まされて、すごく心に響いた。それでカナダ戦の前に『私がやりたい』とコーチにお願いしたら、チームメイトもこのままやってほしいと言ってくれました。それでカナダに勝てた」
──前回金メダルのイギリス、地元イタリアにも勝利。印象深かったのは、イタリア戦、同点で迎えた最終エンド、最後の一投。後攻にイタリアが控えるという厳しい局面の中、笑みを浮かべたことです。
「なんで笑ったんですかね。自分はネガティブな性格なんですけど、投げるときに、ブーイングのような声があったんです。それまで自分のせいで負けていたこともあって絶対決めてやると思った。私が笑っていればみんなも安心してくれるという思いもありました」
──最終戦のスイス戦で敗れ、惜しくも予選敗退。この結果は。
「残ってくれた親や応援団、知らない海外の人も応援してくれて……。メダルがどうしても欲しかったので、悔しさがありました」
──ソルトレイクに続く2度目の五輪。前回とは意気込みが違うように思いました。
「ソルトレイクは出られるだけで嬉しかった。そのために甘さが出たのか、ミスばかりでした。終わったときに次の五輪はメダルを、納得のいくプレーをしようと思いました」
──メダルへの思いにあるものは。
「カーリングはすごくマイナーなスポーツで、『あんなのスポーツじゃない』とか、中傷する話も耳にしていました。自分はプライドをもってカーリングをやっている。そう言われるのが悔しかった。それには五輪でアピールするしかない、メダルを取ってカーリングの魅力を知ってもらおう、歴史を作りたいと思って臨みました」
──カーリングは頭脳とともに、実は体力面もきつい競技ですよね。
「見た目より全然ハードです。全身を使います。それに試合は2時間半以上。体力がなければ集中力も続かない。だから夏場は徹底的に体を鍛え上げます」
──これからのことは考えていますか。
「この4年で私も変わりました。普段は変わらないですよ。ちゃらちゃらした人間で、精神年齢が若い(笑)。でも競技では、嫌われようが陰で何を言われようが構わない、勝つために必要なことを言い、厳しくもする。そういう心構えができました。みんないい子たちで、結果を残したいという私の思いを理解し、よくついてきてくれた。恵まれたと思います。……ソルトレイクが終わって4年間、五輪のことを考えない日は1日もありませんでした。この4年間を1週間のために費やしてきた。メダルを取れなかったことは悔しい気持ちもあります。一方で充実した4年だったとも思います。今はゆっくりしたい。そしてこれからどうするか考えたいです」
輝いていた舞台。
4勝5敗、10チーム中7位。残念ながら予選敗退に終わったものの、日本チームが見せた戦いは、その成績以上に価値あるものだった。
前半戦は不調だった。初戦のロシアに敗れ、2戦目でアメリカに勝利するが、ノルウェー、デンマークに連敗。迎えたのはメダル候補と前評判の高かったカナダ。ここで、強豪相手に日本はスキップ・小野寺がナイスショットを連発、金星をあげる。スウェーデンには延長で惜敗したが、ソルトレイク金メダルのイギリス、地元の大声援を受けたイタリアを連破。最終戦のスイスには敗れたものの、後半戦は、見事にチームを立て直した。
ドラマチックな展開で人気となった日本チーム。だが、価値はそれだけではない。
カーリングは、アイスの状態、ストーンの位置など、刻々と変わる状況を読み取り瞬時に決断を迫られる。その中に生まれる──極限にある神経、集中から来る──表情こそ、この競技が観る者を惹きつけた要因といえる。彼女たちの、その表情こそが、日常には見られない、スポーツの勝負の場にこそ生まれるものの体現でもあったのだ。
メダルは取れなかった。それでもカーリングチームが称えられるべき理由は、そこにある。