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柳沢敦 愛される理由。 ――なぜ彼はあの時、蹴らなかったのか?
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byTakuya Sugiyama
posted2009/04/22 09:00
周りの選手の特徴をつかみ、すべてに対応する能力。
本田が強調するのは、柳沢が味方の特徴を細かく把握していることだ。
「ボールを持った選手によって動き方も変えてくる。代表でも、名波はこう、俊輔はこう、みたいなイメージをインプットしたうえで、動き出しをしていた。相手DFの特徴も頭に入れているし、ヤナギが合わせてくれるから、出し手としてはタイミングさえ気を付けておけばいい」
執拗に裏を狙い続け、どの選手、どのパスに対しても適応できた柳沢のスタイルは、トゥルシエやジーコからも高く評価され、日本代表でレギュラーを張り続けたことは周知のとおりだ。かつて中村俊輔が「ヤナギさんのおかげでボールが回りやすくなった」と話していたように、ボールを引き出す技術にかけては天下一品だ。
バッシングを受けたドイツW杯以降の柳沢は'08年に京都サンガに移籍し、日本人トップとなる14得点を挙げ、Jリーグのベストイレブンにも選出された。高みを目指す姿を、本田はずっと見守ってきた。
「アイツは、今も自分自身のスタイルにこだわりを持ちながら、去年は、結果を残したいという気持ちも伝わってきた。ここにパスを出せよ、みたいなジェスチャーだって増えてきたし。W杯後に苦しんできたなかで今もこうやって活躍できるということは、ヤナギのなかで迷いみたいなものがなくなったんじゃないのかな」
攻撃の選択肢を増やすための“ヤナギ”。
柳沢は今月に左ひざの内視鏡手術を受け、復帰は7月ごろと見られている。昨年のような状態に回復すれば、岡田ジャパンに必要な存在になると本田は断言する。
「今の日本代表のFWはドリブラーが多いし、中村俊輔という絶好のパサーがいるわけだから、動き出しという部分ではスペシャリストのヤナギがチームに加わることによって、攻撃の選択肢も増えてくるように思う。柳沢敦というストライカーは、実に日本的なタイプ。実際、ゴンさんだって動き出しで勝負するし、無理にシュートを打つよりパスを選択する人。カズさんだって動き出しがうまい。日本人の体格はヨーロッパ並みに大きいわけじゃないから、同じように体格で勝負する仕事を求めるわけにはいかない。俺は、やっぱりヤナギのようなタイプが、日本人ストライカーの一つの形だと思う」
敏捷性をいかし、全員で得点を奪いにいくという岡田ジャパンのコンセプトに、柳沢もまた、合致したプレーヤーであることは言うまでもない。