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アンドレス・イニエスタ 「恥ずかしがりやの天才」
text by
横井伸幸Nobuyuki Yokoi
posted2006/12/21 22:57
「僕は、レアル・マドリーとは話したこともない。父や弁護士のところには連絡があったのかもしれないけれど。でもね、今いる場所が心地良くて、みんなが良くしてくれるなら、他所へ行く必要なんてないでしょ。僕はもう10年バルセロナにいるけれど、昔からずっと楽しく過ごしてきた。
それに、トップチームへ上がることだけを夢見て長い間努力し、闘ってきたんだ。やっとのことでここまで来た今、他のチームへ行くことなんて全く考えてない。僕はここで試合に出て、活躍したい」
'03-'04シーズン、バルサはラポルタ会長の下、新体制をとり、ライカールトが監督に就任した。チームは一新され、イニエスタにとっては飛躍の年になると思われたが、UAEでのワールドユースに参加したこともあって──スペインを準優勝に、文字通り導いた──リーガの出場試合数は11に留まった。
翌'04-'05シーズンは、エトーと並ぶチーム最多の37試合に出場した。うち25試合が交代出場だったため、ピッチに立っていた時間はエトーの3130分に対して1677分と少ないが、開幕前ライカールトが「重要な存在になる」と予言したとおり、多くの試合で勝利を決定づける働きを見せた。
「先発は少なかったけれど、不満はなかった。僕の望みは今も昔も試合に出ることで、あのときはリーガ38試合中37試合、チャンピオンズリーグでも8試合全てで使ってもらえたんだから。ただ、だからといって、またベンチスタートばかりになるのはゴメンだけどね。
身体の小さな僕は、相手が疲れてきた後半に丁度良いっていう意見もあった。でも、僕自身はそうは思わないし、90分丸々やれることは去年証明してる。だいたい、残り20分のところで出される方が、90分全てやるより難しいんだ。観ている人は20分だけだろと思うかもしれないけれど、ピッチに入った時点で流れはどちらかに傾いてるし、その20分のうちに試合のリズムに同調しなきゃならない。ミスをしている時間的余裕もない」
野球でいうクローザーの役割を果たすことができたのは、ずば抜けた技術だけでなく、素晴らしい頭脳をも持っているからである。
イニエスタなら途中からでも試合をコントロールできる。そう考えたからこそ、ライカールトは彼を毎回起用し続けた。
昨季はチームのハブであるシャビが故障し、その開いた穴を不足なく埋めた。チャンピオンズリーグ決勝戦、エトーの同点ゴールを生んだプレーは、イニエスタが起点だ。