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アンドレス・イニエスタ 「恥ずかしがりやの天才」 

text by

横井伸幸

横井伸幸Nobuyuki Yokoi

PROFILE

posted2006/12/21 22:57

 今年の夏バルサに加入したテュラムは、イニエスタのプレーを見て驚いた。

 「ボールのコントロールが素晴らしい選手だとパトリック・ビエラに何度か言われたことがあったんだが──」

 3年前の夏には、バルサで2度目の練習を終えたロナウジーニョが、集まっていたメディア関係者の前で指差した。

 「あいつは上手い。あの子。あのイニエスタってやつ」

 さらに遡ること2年半。当時キャプテンを務めていたグアルディオラは、練習場に集まったチームメイトの前でこう言ったそうだ。

 「みんな、今日という日をいつか思い出すだろう。アンドレス・イニエスタが初めて俺たちのところへ練習しに来た日として」

 このときイニエスタは16歳。練習とはいえ、普通トップチームに呼ばれる歳ではない。

 スペイン中東部アルバセテ県の小さな村フエンテアルビーヤに生まれたイニエスタは、サッカー好きの父親の影響もあって早くからボールを蹴り始め、8歳のとき、地域最大のクラブ、アルバセテ(現在2部)に入団した。テストを受けてのことだが、「9歳以上」が条件だったにも拘わらず合格したのは、後年世界トップの選手たちを唸らせることになる才能が、すでに芽を覗かせていたからである。

 自分の村からアルバセテまでは片道46km。母親や祖父を運転手に、この距離を通い続けたイニエスタは、12歳で派手な全国デビューを飾った。マドリッドに近いブルネテで行われた7人制サッカーの大会に出場し、力の劣るアルバセテを率いてデポルティボやベティス、レアル・マドリーら強豪を倒しただけでなく、大会の最優秀選手にも選ばれたのだ。

 この大会がイニエスタの人生を変えた。

 「いろんなクラブのスカウトが、両親のところへ電話をかけてきたんだ。なかでもバルサは、最優秀選手賞の賞品としてポルト・アベントゥラ(バルセロナから約110kmのところにあるテーマパーク)に招待された僕ら一家を、さらにバルセロナまで招いて、マシア(育成部門の寮)や他の施設を見せてくれた。そこで子どもたちの様子を見た僕は、自分もここに入りたいって感じた。他のクラブは見てないけれど、選手育成のコンセプトとか練習の仕方とか、ここが一番だと思ったんだ」

 しかし、恥ずかしがりやで家族にべったりの男の子にとって、1人故郷を離れ、知らない町で暮らすのは易しいことではない。

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#アンドレス・イニエスタ
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