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アンドレス・イニエスタ 「恥ずかしがりやの天才」 

text by

横井伸幸

横井伸幸Nobuyuki Yokoi

PROFILE

posted2006/12/21 22:57

 「さっきも言ったけど、カンテラの子供がトップチームまで行くのは本当に難しい。なのに僕は今、そこで世界のスターたちを動かす立場にいる。こんなの想像もしなかった。ロナウジーニョやエトー、デコらと同じチームでやれるなんてすごいことだ。毎日の練習に来るのがとにかく楽しい。

 チームそのものも、僕がデビューした頃に比べて随分強くなった。3年前、ラポルタ会長がクラブ全体を変えた──あれがきっかけになったと思う。正しいアイデアをもってクラブを改革すれば、チームもまた変わるってことだ。主力になり得る選手を外から連れてきて、元からいた僕らも気持ちよくサッカーできるようになって……。クラブと選手は1つ。クラブの状態が良くなれば、選手の調子も良くなるんだ」

僕たちは研究されている。でも必ず、突破できる。

今季のバルサは、リーガに関していうと、クラブ史上最高のスタートを切っている。第12節を終えた時点で9勝1敗2分け。優勝した'04 ― '05 シーズンと同じだが、得失点差はプラス21と、4点上回っている。

 ところが印象は“不調”だ。プレシーズンの準備不足に端を発するコンディション不良が長引いたせいか、はたまた10月半ばチェルシーとレアル・マドリーに連敗を喫したせいか、前年の方が良かったと言う人は多い。

 「どんなモノにも毎年、毎月、その時々の状態というものがある。サッカーチームの場合は技術面、体力面、精神面それぞれの状態だ。バルサにも現在の状態というのがあるから、そこでうまくやれていないことがあるなら改善するだけ。昨季は良かった、今季は悪いとか言っても仕方がないし、比較するのは好きじゃない。シーズンは長いんだ、良いときもあれば悪いときもある。

 いずれにせよ、僕らの出来は悪くないよ。それより相手がバルサをよく研究してるせいで、試合が難しくなってるんだ。皆チャンピオンに勝ちたいと思ってるから。でも、試合に対する僕らの姿勢は正しいし、練習だってしっかりやってる。現に結果は付いてきてる」

 確かにバルサは研究されている。そればかりか、「中盤に圧力をかけ、ボールの循環を止める」という攻略法もすでに明示されている。昨季はオサスナが、今季は欧州スーパーカップでセビリアが、この方法でバルサに完勝した。

 「今季は大抵のチームが僕やデコ、シャビにしつこいマークを付け、プレッシャーをかけてくる。対処法は──そうだね、よく動いて、頻繁にポジションチェンジすることかな。あとは然るべきメンタリティを持って、気持ちで負けないこと。そして、できるだけ速くボールを廻すこと。ここを突破できれば、バルサは1つ上の段階へ行けると思う」

 日に焼けない白い肌と優しい目には、家族を思って泣いていたという男の子の面影が今も残っている。しかし、その言葉と纏う空気に漂うのは、王者バルサで不可欠な存在になりつつある選手ならではの威厳と自信だ。

 スペイン語に「ドン」という、国王を始め社会的地位の高い人に付けられる敬称がある。昨シーズン辺りから、バルセロナのメディアは、イニエスタにこれを用いるようになった。

 “ドン”アンドレス・イニエスタ。

 22歳にして名人と認められた選手。

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