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宮本慎也 「甲子園で校歌を聞こう」
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byJMPA
posted2009/02/12 23:00
「監督としてボスはボスですけど、ジャパンの場合は国のため、日本の代表として、というのがある。とにかくまず勝つためにどうするか。端的に言えばオリンピックで勝っても一銭にもならないわけですから。で、集まってくるのはあれだけ実績があり、チームでは好き勝手やっている連中です。そのチームをまとめるだけでも大変なのに、結果で負けたらボロクソ。そういうすべてを背負わなければならない。それがジャパンの監督だと思います」
アテネ五輪のアジア予選では長嶋茂雄、第1回のWBCでは王貞治、昨年の北京五輪では星野仙一と3人の日本代表監督の下でプレーした。それぞれのチームの動かし方、勝利へのアプローチの方法は三者三様だったという。だが、一つだけ共通する部分があるとすれば、3人の持つ圧倒的な威圧感だった。
「長嶋さんとは予選の3試合しかやっていないです。でも、決断力の早さには驚いた。小笠原(道大)を最初は3番で起用したのに、打てないと見たらすぐに8番に下げた。なかなかああは即断できないな、と思いました」
このときの小笠原は2年連続首位打者を取った上げ潮選手。それでも勝つためには“捨て石”にできる。その決断力と勇気を持つことも代表監督には必要だということだった。
「普通の監督だったら批判されてもおかしくないところですが、そういう批判を許さないようなカリスマ性というのは長嶋さん、王さんには共通した部分でした。星野さんはその2人に比べると距離感はちょっと違った。遠からず近からず。友達的でもないし、かといって近づけないほど遠くもない。ただ、この3人に共通するのは何ともいえない威圧感です。ペナントレースで優勝したり、結果を残して名監督といわれた人に共通するのは、そういう威圧感なんだと思います」
姿形が見えなくても、背後に立っただけで空気が変わる。その瞬間に、選手は本能で監督の匂いをかぎ分けることになる。卓越したカリスマ性、頭抜けた野球理論、類まれな親分肌……。形は違ってもそういう他を圧倒するような存在感を選手たちは肌で感じ、そのとき自分たちのボスと認識することになる。