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「WBC」という謎の大会 

text by

海老沢泰久

海老沢泰久Yasuhisa Ebisawa

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photograph byTakashi Shimizu

posted2009/02/24 00:00

「WBC」という謎の大会<Number Web> photograph by Takashi Shimizu

 2月16日から宮崎でワールドベースボールクラシック(WBC)のキャンプがはじまったが、テレビも新聞もこの話題で持ち切りだ。見物の人出も、連日4万人を超す騒ぎらしい。

 アメリカではこの騒ぎが理解できず、ニューヨークタイムズ紙などは、アメリカ代表がそろって練習するのは3月2日以降なのにと首をひねっているらしい。また、アメリカの多くの選手は大会がシーズンへの準備を妨げると思っていて、昨シーズンの大リーグの20勝投手は4人とも大会に参加しないと報じているという。

 そもそもこの大会は、アメリカでは世界一決定戦などとはとらえられていない。バファローズ取締役のマリヨン・ロバートソン氏によればこうだ。

「WBCはベースボール発展のための興業であり、ある意味オールスターゲームのようなエキシビションゲームととらえているファンや関係者は多い」

 それを裏付けるように、スポルティング・ニュース誌がアメリカ人に優勝国予想アンケートをおこなったところ、アメリカという予想は32パーセントだったが、それを上回る33パーセントが「知ったことではない」と答えたという記事が1月の新聞に出ていた。大会に対する大リーグの選手たちの気持も知れようというものだ。

 では、日本の選手たちはなぜアメリカの新聞が首をひねるほど張り切っているのだろう。

 ダルビッシュのような若い選手が張り切るのはよく分かる。ダルビッシュに限らず、若い代表選手の多くは、近い将来大リーグに行くことを視野に入れているだろうからだ。そういう選手にとっては、WBCはもっとも手っとり早い売り込みの機会なのである。

 しかし、もうそんなことをする必要のないイチローまでが大真面目に張り切っているのはなぜなのだろう。アメリカにいてアメリカの白けた空気を誰よりもよく知っているはずなのに、「ザ・パフォーマンス」などといって誰よりも目立つ動きをしている。

 アメリカで絶賛されていたイチローが、チームプレーヤーではないとか、リーダーシップがないと、アメリカの新聞記者や同僚選手に批判されるようになったのは去年あたりからだ。

「自分がヒットを打つことしか考えない」

「いいプレーよりも格好良くプレーすることのほうに興味がある」

「マリナーズが本気でチームを改造したいなら、イチローをトレードで放出することを検討すべきだ」

 最近も、マリナーズの守護神をつとめたJ・J・プッツがシアトルタイムズにつぎのように語った。

「去年のマリナーズはバラバラで、チームプレーヤーじゃない選手たちがいた。毎年200安打する人間に注文をつけるのはむずかしいが、イチローも、もっと何か別にやりようがあるはずだ」

 しかし、日本に帰ればそんなことをいう人間はいない。特別顧問の王貞治氏は日本チームのリーダーだと持ち上げ、マスコミと後輩の選手たちはそのバッティング技術をきこうと群がり、キャンプで背面キャッチのパフォーマンスを見せれば4万人のファンが歓声を上げてうっとりする。アメリカでは得られなくなったそういう気持ちのよい待遇がなつかしくなったのであろうか。それとも、代表チームで、リーダーシップがあり、チームプレーヤーでもあるということをアメリカに対して証明しようとしているのであろうか。

 WBCは、2回目になって、ますますその目的の分からない、謎めいた感じの大会になっている。

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