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<イエメン遠征の真実> 一夜かぎりの痛快大逆転劇。~“若すぎる日本代表”が見せた可能性~
text by
浅田真樹Masaki Asada
photograph byKiminori Sawada
posted2010/01/26 10:30
“若さ”からくる勢いでイエメンを完全に飲み込んだ。
潮目が変わったのは、42分。
金崎の左CKを、平山相太が驚異的な高さのヘディングで叩きつけると、ボールはゴールライン手前で大きく弾み、ゴールネット天井部に突き刺さった。2点のリードで淡い期待を抱いた観衆の度肝を抜く一発は、大きく試合の流れを手繰り寄せた。
後半に入ると、若さゆえの勢いが、足の止まったイエメンを完全に飲み込んだ。日本は後半開始から乾を投入し、4-4-2から4-1-3-2へ布陣変更。厚みを増した攻撃を展開しながら、ボールを奪われてもカウンターを許さず、一方的にゲームを支配した。
全員の気持ちを代弁し、柏木は言う。
「(代表に)残ることより、今日は勝たなアカンという責任感のほうが強かったし、それが全面的にプレーに出た。あんなに(攻守の)切り替えが速くできるんか、って自分でも思ったくらい、いい守備ができたから」
55分には同点ゴールが、79分には逆転ゴールが、いずれも平山の左足から生まれ、日本は大逆転。勝ち点3とともに、アジアカップ本大会への出場権を手にし、“若すぎる日本代表”は無事に責務を果たすことができた。
“若すぎる日本代表”はフル代表の露払いに過ぎないのか?
しかし、彼らの目の前には、切実な問題がまだ残されていた。すなわち、この結果を受けて、ワールドカップメンバーに入る可能性が残されたか否か、である。
今回のイエメン戦には、若手にラストチャンスが与えられたという側面もないではないが、第一義は主力を休ませることだった。岡田も「(イエメン戦が)1月20日だったら、フル代表(主力)で来ていた。ワールドカップを考えると、この時期に主力を休ませなければならなかった」と明かしている。
また、岡田は試合前日の記者会見でも「(若い選手がメンバーに残るには)意識の高さが大切になる。まだ日の丸を背負う重みを実感していない」と突き放すような発言までしていた。過度の期待はしないように――。あらかじめ釘を刺しているかのようだった。
だからだろうか、メンバー入りへの意欲を、あからさまに表に出す選手は見られなかった。ハットトリックの平山でさえ、生き残りの手ごたえを問われると、「全然ない」。多くの選手から聞かれたのは、ある種の諦めを含んだ、控え目な発言ばかりだった。