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【日本シリーズ総括】 江夏豊が見た勝負の核心。
text by
永谷脩Osamu Nagatani
photograph byNaoya Sanuki
posted2009/11/17 10:30
万全の体調で投げるダルビッシュを来年見たい。
日ハムはやはり、ダルビッシュ有のチームだった。
シリーズ開幕前、ダルビッシュは投げられないという見方が大勢だったが、私は投げると思っていた。なぜなら、彼は、「お前に任せた」と言われればそれに応える熱い心を持つ、数少ない選手のひとりだから。案の定、ダルビッシュは第2戦に先発、完全でない状態でごまかしごまかし、6回を2失点に抑えた。好投を可能にしたのは、彼の感性、イメージ力の凄さである。
しかし、この登板は彼の来年、あるいは将来にとってどうだったのかな、と思う。もし第6戦を日ハムがとっていれば第7戦のマウンドに立っていたかもしれないが、正直言って私はその痛々しい姿を見たくなかった。彼にはぜひ、いい状態で来年、シリーズに戻ってきてほしい。阿部が成長したのも、ケガで去年の日本シリーズに満足に出場できなかった悔しさがあったからだった。
日本シリーズで露呈した巨人の弱点とは?
ある程度、自分たちの野球ができた巨人にも、足りないところがある。人は「巨人は選手層が厚い」というが、私は逆に巨人ほど選手層の薄いチームはないと思う。たとえば、ラミレスが抜けた場合、小笠原道大が抜けた場合、同じくらいの実力を持った控えがいない。
また、若手選手に大舞台の経験が少ない。今季、急成長を遂げた坂本勇人も、1点ビハインドで迎えた第5戦の8回裏、ノーアウト二塁、どうしてもランナーを進めたいこの場面でバントを失敗した挙げ句、ボール球に手を出して三振に倒れた。それでも同点に追いついて迎えた9回、今度は山口がノーツーから絶対投げてはいけない甘いスライダーを高橋信二に本塁打された。
両方とも考えられないミスだが、裏を返せば彼らにはまだまだ成長の余地がある。本人たちは相当、悔しかったはずだ。大舞台での悔しさは、次の成長につながっていく。日本シリーズは、選手が大きく育つきっかけとなる舞台でもある。