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打開せよ、松井大輔。/日本代表特集 『変革なくして4強なし』
text by
寺野典子Noriko Terano
photograph byMasahiro Fukuoka
posted2009/07/09 11:31
「俺がなんとかするのに」という言葉に表れるジレンマ。
日本人の特性を活かすということでスタートした現代表のパスサッカー。未だ世界レベルのチームとの対戦はほとんどないが、それでもある程度の進化は遂げている。とは言え、パスは繋がってもゴールを奪うという意味での非力さは否めない。局面を打開する個の力が必要だと誰もが感じるだろう。そこで期待するのが松井の突破力だが、果たして彼はその期待に応えられているのだろうか。
「カタール戦もそうだったけど、相手のプレッシャーがきついとパスがうまく繋がらず、急ぎ過ぎる縦パスやバックパスが増えてしまう。後ろにパスを出すくらいなら、俺に当ててくれたら、なんとかするのに」
松井にボールが渡れば彼の個人技でタメができただろうし、DFを引きつけることでチームにとって、数的優位な状況を生みだすことも可能だ。しかし、彼が単独で切り込んだとしても、ファウルを得ておしまいというシーンが繰り返される。突破してもチームとしてのプレーが続かないのが現状だ。
「俺が行ったら、『ひとりで行くんだろう』みたいな雰囲気になることもある。でももっと助け合うというか、パス交換しながら、ペナルティエリアへ入っていくとか。やっぱり、俺も含めて、ペナルティエリアの最後の3分の2を上手く使えていない。3トップ、1トップのサッカーをJリーグではあまりやっていないから、なんとなくイメージだけでプレーしているというか。もっと、はっきりしたパターン、形があってもいいはず。攻撃の選手が集まってワン・ツーで崩すのか、個々で抜いてセンタリングを上げるのか……とか。コンビネーションの質を上げ、もっと良くすることは必要だと思う」
松井が「結果を残す」ために必要なものとは?
個を活かすためには周囲の選手の理解も重要になる。だから、たとえば中村俊輔は「パイプを太くしたい」と数多くの選手と言葉を交わす。そんな中村に比べると、松井は淡々と自分の仕事に集中しているように見える。仮に自分のパスコースが消されたとき、チームメイトを叱責するくらいの強い主張をしてもいいはずだが、そんな松井を見たことはない。それは、個人を尊重するフランスでの選手生活の影響なのか。
「フランス(リーグ)の選手は、『俺は俺の仕事をするから、お前はしっかり自分の仕事をやってくれ』という感じ。我関せずっていうところはある。そんな中でプレーしていて、『何があっても俺は俺のやり方でやる』と何事にも動じなくなった」
松井のプレーにはフランスで身につけたタフな精神力と独立心が生きている。しかし、それを日本の武器とし、彼自身最も欲しい“結果”へ変えるためには、もっと積極的にコミュニケーションをとる必要がある。それは松井にとって、満足できない現状を打破するための新たな挑戦となるはずだ。
「もっと話し合わないといけないのかもしれない。周囲の期待に応えられていないというのは、一番自分がわかっている。この状況を打開するのも自分自身だから。そのためにすべてを変えたい。今までやってきたことすべてを。次のシーズンはワールドカップのためにというか、そういう1年にしたい。クラブで試合に出ることが大前提。そして、結果を残すこと。それしか求めていない」