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中村俊輔 「泥臭く、献身的に」 / W杯アジア最終予選レポート
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byKiminori Sawada
posted2009/06/23 11:00
股関節痛との孤独な戦いを乗り越えて。
チームが逆境に耐え、共通理解を持って戦えたことに、中村は満足そうな表情を浮かべた。そして個人的にも「責任とかあったから、達成できたというのはある」と、少なからずW杯予選の重圧がのしかかっていたことを吐露した。
今回、中村にはケガという試練がつきまとった。今シーズン、苦しめられてきた股関節痛との戦い。練習の前後にジムとプールに足を運び、じっくりとケアに時間をかけることで痛みを最小限に抑えようとした。
「痛みは大体、平行線のまま。それでもコンディションを上げることができているから、いけるんじゃないかな」
気丈に笑い飛ばしながらも、陰ではずっと孤独な戦いを続けていたのだ。
W杯出場の喜びなど束の間、チーム全体の底上げを図ることに全力を注ごうとする中村の行動はスピーディーだ。
中村が先頭に立ってチーム内コミュニケーションをとる理由。
全体が間延びしてスペースをいいように使われてしまったウズベキスタン戦の課題を修正するため、帰国してすぐに岡田監督、中村憲剛と話し合いの場を設けている。それにメンバーを入れ替えて臨んだカタール戦では、攻撃の連動性を欠いてしまったことで、「早く修正したいから」と、試合直後にコーチングスタッフと意見交換を図ってもいる。
コミュニケーションの広がりと深化によって共通理解の密度が濃くなり、ひいては「全員攻撃、全員守備」の質を高めることにつながるとの確信を持つゆえの行動であろう。
股関節痛を押してまでカタール戦の出場にこだわったのは、本大会に向けたスタートの試合だったから。
「合ってない。だから球離れが遅くなって、下げたときに囲まれてしまう」
ため息をつきながらも、どうやって修正すべきか、頭のなかでずっと答えを探し求めていた。ベスト4の大望を果たすための中村俊輔のチャレンジは、もう始まっている。
中村俊輔
ウズベキスタン戦では守備に追われる時間が多かったもののアジア予選を通じて大黒柱としてチームを引っ張り、3得点を挙げた。日本代表キャップ87、23得点は、ともにMFとしては歴代最多である。'78年6月24日生まれ。178cm、73kg