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中村俊輔 「泥臭く、献身的に」 / W杯アジア最終予選レポート
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byKiminori Sawada
posted2009/06/23 11:00
タシケントはその夜、激闘の熱を冷ますかのように涼しい風が吹いた。
スタジアムのピッチに、退席処分を受けた指揮官がインタビューから戻ってくると、中村俊輔はゆっくりと歩を前に進めた。
右手と右手。ガッチリと握手を交わした光景に、カメラのフラッシュが一斉に焚かれる。指揮官の左手が背中に光る「10」の数字を優しく叩く。泥臭く、献身的に、チームのために走り続けた奮闘ぶりを称えるように。
中村の献身的な攻撃的ディフェンスが先制点を生む。
先制点のきっかけをつくったのは、中村の守備だった。相手スローインから出たボールに対して激しくプレスをかけ、攻撃のキーマンであるジェパロフに無理な体勢でミスキックのクロスを放りこませた。このボールが味方に渡り、中村憲剛のパスに抜け出した岡崎慎司がゴールを奪うのである。
1-0になってからも、守備に長い時間を割いた。全体が間延びして最終ラインと中盤の間に空いたスペースを、中村はカバーに回り続けた。シリア人の主審にウズベキスタン寄りの笛を幾度も吹かれようが、ひるむことはない。あくまで「勝利にこだわる」ため、バランスを崩さないように慎重かつ攻撃的なディフェンスを、自らの使命とした。
「憲剛も(大久保)嘉人も前がかり気味だったから、自分はなるべく引いて、(守備での)ファーストアタッカーになろうと思った。もちろん昔のように自分のプレーをしたいっていうのはあるけど、(今は)チームプレーを優先しているから。嘉人だって自然と守備をしていたよね。みんな、ぶれなかったというか、忍耐力があった」
終始押されていようが、最終的に勝つことができるようになった。
アウェーにはアウェーの、状況に応じた戦い方がある。
4月に行なわれたW杯予選のトルコ-スペイン戦を、中村は脳裏に焼き付けていた。トルコに押されっ放しだったアウェーのスペインが必死に耐えた末、後半ロスタイムに勝ち越しゴールを奪って勝利を収めた試合。そのイメージを強く持って、勝負のウズベキスタン戦に臨んだのだ。
「押されていようが、結果的にはスペインが勝った。そういう戦い方も必要なんだと思う」
中村が先頭に立ってユニフォームを汚したことでチーム一丸の守備を引き出したのである。