スポーツはどこへ行くBACK NUMBER
食事会場は授業中の教室のように…ドクター&広報が語る、日本代表の感染予防策と取材対応
posted2020/10/30 17:02
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph by
Getty Images
今回、この遠征に関わったJFA関係者、テレビ局員に取材をし、舞台裏からこれがどれほど大きな「挑戦」だったかを4回(#1、#2、#4)にわたって、「Jをめぐる冒険」連載中の飯尾篤史氏が深部まで描く。マッチメークや選手招集などに腐心した第1回、第2回に続く第3回は、日本代表の練習を取り巻くリアルな背景について。
新型コロナウイルスの感染が急速に広がった春から半年近くが経過し、人々の生活は日常を取り戻しつつあった。
しかし、JFA技術委員長の反町康治は未だ非日常であることを、改めて突きつけられる思いがした。
成田空港は閑散としており、店もほとんど閉まっていたからだ。
「旅行者はゼロに近いし、デューティーフリーショップもやっていない。本でも買って飛行機に乗ろうと思っていたんだけど、書店も開いてなくてね」
10月4日、日本代表スタッフは成田空港から、オランダはアムステルダムのスキポール空港に向けて旅立った。
スタッフの人数は28名。今回の日本代表チームには東京五輪世代である23歳以下の選手たちが7人選出されているから、川口能活ら五輪代表チームのスタッフも帯同した。そのため、普段の海外遠征よりも大所帯となった。
ユトレヒトのホテルでは、一般客を含め第三者と接触する機会がないように、隔離された棟を使用した。その棟に出入りするホテルスタッフ、清掃員には、マスクや手袋を着用してもらうことになっていた。
選手が合流する前日、チームスタッフだけのミーティングの席で、「同じ役割の人は分かれて座ったほうがいいですね」と注意を促す女性の声があった。
「最悪の事態に陥った場合の対応を」
声の主は、日本代表帯同ドクターの土肥美智子である。この言葉には、万が一感染者が出ても、チームの活動が続けられるよう、同じ役割を担当する者が共倒れしないように、という配慮が込められていた。
その土肥がオランダ遠征に向けてまず準備したこと――それは、現地医療機関とのコンタクトだった。
「発症者が出た場合、どうやって隔離するかを考えましたが、症状が急に悪化する場合がある。そうなるとホテルの中だけのケアでは追いつかない。現地の医療機関に頼らなければならないだろうと。私はFIFAの医学委員をやっており、FIFAには世界中のドクターとのネットワークがある。そこにオランダの先生もいましたので連絡を取って、遠征中に病院での治療が必要になった場合のバックアップをお願いしました。その先生がすぐ、ユトレヒトの大学病院の先生を紹介してくれて、最悪の事態に陥った場合の対応を担保したんです」
現地でのPCR検査に関しては、JFAの競技運営部も検査機関を探していたが、それとは別に、土肥もオランダのドクターを通じて検査機関にアプローチした。