ざっと35年前。あれは新宿の裏道の小さな酒場だった。本誌の版元の出版社に勤める年長の常連に質問した。
「井伏鱒二のような大作家の原稿をもらって、よくないなと思ったら、書き直してください、なんて伝えられるもんですか?」
いまは亡き紳士の穏やかな口調が忘れられない。
「そういうときはね。先生、ここのところですが、ちょっと違和感が。そう言うのです」
駆け出しスポーツ記者はあの夜に「いわかん」という日本語の懐の深さを知った。
“違和感”から完全な状態で走れない。
陸上競技の男子100mの日本記録保持者の山縣亮太がパリ五輪出場を断念した。5月16日の会見で明かした。
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photograph by JIJI PRESS