ライバルたちを次々と抜き去る箱根のヒーローは、実力のみならず、様々な偶然が重なってはじめて誕生する。記憶にも記録にも残る場面のからくりを解き明かす。
「実際にごぼう抜きをしているランナーと見ている側とでは捉え方に温度差があるように感じます」
30年以上も陸上競技および駅伝を取材している寺田辰朗はこのように語る。
1人が一気に順位を上げるレース展開は見ている側に興奮を与えるが、当事者であるランナーたちは少し違うようだ。
「2003年(79回大会)に2区で15人抜きを記録した中川拓郎を何度か取材しましたが、彼はそれを得意げに話すことは決してありませんでした。区間4位の選手が過剰に評価されるのは良くないというのが彼の意見です。彼の場合、1区を走ったチームメイトが力を発揮できなかったことが、2区でのごぼう抜きに繋がったわけですが、それについて誇らしげに語ることは、暗にチームメイトを貶めることになるのです」
ごぼう抜きが起きるためには、前走者による想定外のブレーキが前提条件としてある。そもそも上位で襷を受けると、抜く人数が限られてしまうからだ。つまり、襷を繋ぐ駅伝競技だからこそ見られる偶然の産物なのである。
歴代のごぼう抜きはほとんど2区で発生。
歴代のごぼう抜きランキングを見てみるとそのほとんどが2区で生じていることが分かる。それには他の発生条件が関わっていると寺田は分析する。
「襷をもらった時点で前方の集団がどれだけ近くにいるか。そして選手のタイプです。私の感覚としては前半から飛ばすことができるスピードランナーが低い順位で襷を受け、比較的近い距離に集団がいればごぼう抜きは起きます。この条件が揃いやすい区間というのが2区と3区なんです」
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photograph by Tetsuya Murakami(Illustration)