11月11日、藤井聡太は竜王戦七番勝負で伊藤匠七段の挑戦をストレートで退けた。10月の八冠達成はもちろんのこと、これまでに登場した19回すべてのタイトル戦を制したのは信じられない記録である。伊藤より前に大舞台で戦った相手は年上ばかりで、最も年が近かったのが7歳上の佐々木大地七段。伊藤とは同学年で、今回が初となる21世紀生まれ同士のタイトル戦だった。藤井が同世代に完勝した事実は、改めて全世代に敵なしであることを証明した。
敗れたとはいえ、デビューから3年の伊藤がタイトル戦に登場したのは、トップ棋士に入った証として誇れるものだ。竜王戦挑戦者決定三番勝負では当時の永瀬拓矢王座を2連勝でくだし、挑戦権を獲得したのも鮮烈だった。20歳11カ月でのタイトル挑戦は、歴代9位の年少記録で谷川浩司十七世名人よりも早い。今回の竜王戦でシリーズ開幕時における対局者の合計年齢は史上最年少記録となる41歳で、新世代の台頭を象徴するシリーズとなった。
伊藤は新人王戦優勝、C級1組に昇級など順調に歩んできた経歴から、もともと棋士の間でも評判は高かった。昨年に王位戦で紅組のリーグ優勝をかけて豊島将之九段と戦ったときも、あるトップ棋士は「よく豊島さんも勝ったよなぁ」と感心していた。勉強熱心で勢いに乗る年下を退けるのは、容易ではないからだ。伊藤がすでに新世代の強豪として警戒されているのは間違いない。
タイトル戦線が盛り上がるためには、いま挑戦に近い位置にいる実力者に加えて、急成長中の新人が才能を開花させることが必要である。藤井の実績を思えば、タイトルの失冠はなかなか想像できない。だが、どんな絶対王者といえども、いつかは敗れる日がくる。'96年、羽生善治七冠は棋聖戦で4歳下の三浦弘行五段にタイトルを奪われ、全冠制覇は167日で潰えた。羽生が七冠ロードを歩む間に後輩が順調に育っていたからこそ、大天才の牙城は崩れた。新しいスターが覇者を打ち負かす下克上は、文化の新陳代謝として時代が求めている。
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