その視覚と聴覚は、100万回以上も共有された。最新の三冠馬を出迎えたのは、新装京都競馬場の屋根と壁に響き渡る喝采。眼下では「お嬢さん」が橙と黄で飾られた頭を揺らす。秋麗の西日が眩しかった。
「最高の景色だな」
トリプルティアラを冠したリバティアイランドへ、馬上から川田将雅が語りかけた。赤いヘルメットに装着されたカメラは、映像と音声をすべて記録に残していた。ただ、涙腺から漏れた水分で少し歪んだはずの視界は、彼だけの記憶にとどめられた。
体験をシェアする――。情報が瞬時に拡散していく時代に現れた新女王は、新たな視点から競馬の魅力を発信した。「ジョッキーカメラ」と題したJRA公式YouTubeの新企画がスタートしたのは、今年の桜花賞だった。耳を震わす風切り音、馬群の圧迫感、沸き上がる歓声。騎手だけにしか味わえないスペクタクルが凝縮された動画は、7桁の再生回数に達した。
その実現に携わったのが川田自身だ。'18年夏に遠征先の英国で着用した経験から「喜んでもらえるだろうな」と感じ、JRAへ導入を提案したという。海外ではゴール直後までの公開がほとんどだが、ウイナーズサークルへ引き揚げるまでをノーカットで流すことを希望した。鞍下へ「お嬢さん」と呼びかける場面はSNSも沸かせた。
「あえて、あそこまで、リアルをお届けしたかったので。彼女が勝ってくれたことで、すばらしい映像を提供できました」
そんな実体験をファンと分かち合ってきたからこそ、三冠達成時の祝福や一体感が高まったようにも思える。秋華賞当日の10月15日は自らのバースデーでもあった。
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