最後の一冠となっていた王座を奪取し、藤井聡太が8大タイトルを全制覇した。まさに将棋界の歴史が動いたわけだが、こうなると次の注目は「誰が初めて藤井を倒すのか」となる。とはいえタイトル戦で18期不敗の藤井をうなだれさせる棋士の姿がおぼろげにも浮かんでこないのは、私だけではあるまい。
可能性を探るとすれば、21歳の藤井より年下の棋士となろうか。若さは成長の可能性を大いに秘めているからだ。藤井が棋士になったのは2016年の10月で、後輩棋士は現在までに32人いる。だが藤井よりも若い棋士はわずか3人! しかいない。藤井の早熟ぶりがいかに際立っているかわかるだろう。現在、竜王戦で藤井に挑戦している伊藤匠は同学年だが3カ月弱若い。
そして今年10月に棋士人生を歩み始めた上野裕寿(20歳)は1学年下、最年少棋士の藤本渚(18歳)は昨年10月にプロ入りし、3学年下となる。この注目株の2人は井上慶太九段門下で、若手棋士の登竜門である新人王戦の決勝三番勝負を争っていた。
初戦は上野が得意の矢倉で勝利。10月23日に行われた第2局で、上野は序盤から非勢に陥る。ピンチは何度もあったが中段に露出した藤本玉にうまく迫り形勢逆転。ところが勝勢になった上野は玉の逃げ方を間違えてしまう。もう藤本が逃すことはなく、同門対決は大熱戦の末に1勝1敗のタイとなった。
15歳で三段に昇進も、厳しさを味わう。
その上野に話を聞いた。
「序盤からかなり苦しい将棋でしたが、だいぶマシになってアヤが出てきた気はしていたんです。先輩棋士にも『よくあそこまで勝負に持ち込んだねー』と言われました(笑)。終盤でチャンスが来ていたのを局後に知った時はガッカリしましたね」
痛恨のミスになった玉の逃げ方は2択だった。「本当に迷った末に悪い方を選んでしまいました」。総手数181手の大激戦となった本局で驚いたのは、終局直後の藤本のコメントだった。第3局への抱負を求められ、「2局指して上野さんの強さが嫌というほどわかったので、あまり気負わずに指していきたい」と言い放ったのだ。
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