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《生島淳のラグビーW杯総括》「一生引きずるだろう」後悔と痛みが渦巻いたフランス大会…現地で見たラグビーの「業深さ」とは?

2023/11/13
連覇の立役者、デクラーク(左)とコルビは12月開幕のリーグワンでプレー
51日間の長きにわたり、今回も幾多の名勝負を生み出した楕円の祭典は、王者スプリングボクスの連覇で幕を閉じた。すべてを見届けて浮かんだ言葉――それは「後悔」である。

 後悔。この決勝を戦ったが故に、一生忘れられない悔いを背負ってしまった選手が、どれほどいるだろうか。

 12対11。1点差で南アフリカは宿敵のニュージーランドを退けた。

 オールブラックスのリッチー・モウンガはトライ後のコンバージョンを外した。後半33分、ジョーディー・バレットは40mほどのPGを外した。そして、主将のサム・ケインは痛恨のレッドカードを受けた。彼らが、これからの人生でどれほどの悔恨を抱えて生きていくのか。それを想像しただけで、ラグビーはなんとも業が深いスポーツだと感じる。

 南アフリカも、首の皮一枚を残しての栄冠である。後半33分に一時的退出を余儀なくされたチェスリン・コルビの姿が忘れられない。子供のようにジャージを頭にかぶり、ピッチを正視できなかった。もしバレットがPGを決めていたら、コルビは一生分の後悔を抱えていたに違いない。歓喜と悔恨は背中合わせだった。

南アフリカの決勝まで見据えた構想と、実行する胆力。

 南アフリカは準々決勝からの3試合、すべて1点差での勝利であった。決して偶然ではない。構想力と胆力の勝利とみる。それは「人事」に如実に表れていた。

 準々決勝のフランス戦、準決勝のイングランド戦ともに、SHのファフ・デクラーク、SOのハンドレ・ポラードのふたりのベテランはリザーブからのスタートだった。この起用に釈然としないものを感じたが、実際にこの人事はイングランド戦で窮地を招く。先発SOのマニー・リボックが精彩を欠き、後手に回ってしまったのだ。そこでポラードが前半31分という早い段階から登場して流れを引き戻し、デクラークも後半3分からプレー、どうにかこうにか勝ち上がった。ところが、決勝のメンバー編成を見て驚いた。リザーブ8人のうち、FWが7人だったのである。BKの控えはFBのウィリー・ルルーだけ。つまり、デクラーク、ポラードが決勝で80分間戦うために、プレー時間を制限していたのだ!

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photograph by Akito Iwamoto
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