#1020
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「みんなでエエかっこしようぜ」平尾誠二、ミスターラグビーの「愛の言霊」を追って。《追憶ノンフィクション》

2023/11/11
illustration by Shigeo Okada
長らくラグビー界の顔であり続け、5年前に急逝した巨星。高校、大学、社会人―主将としてのその言葉を紐解くと、司令塔としての天賦の才と、楕円球への熱が浮かんできた。(初出:Number1020号[追憶ノンフィクション]平尾誠二、愛の言霊。)

 その言葉は耳に残っている。

「みんなでエエかっこしようぜ」

 1989年1月15日、全国社会人大会で初優勝を飾った神戸製鋼は大東文化大との日本選手権に臨んだ。舞台は旧国立競技場。ロッカールームを出て、ピッチにあがる階段の下で組まれた円陣。冒頭の台詞を吐いたのは、主将就任1年目、25歳の平尾誠二だった。

 エエかっこしようぜ。

 出陣の台詞としては異色だった。

「勝つぞ」、「圧倒しよう」、あるいは「リラックスして」、「楽しもう」……戦場に飛び出す男たちに似合う言葉はいくらでもありそうだ。だが、このちょっと意外な言葉に背中を押された神戸製鋼フィフティーンは、46─17という日本選手権史上最多得点をあげる快勝で初の日本一を獲得する。その試合で平尾は自ら3トライ。NO8で出場していたルーキーの大西一平は「エエかっこしたのは平尾さんばっかりや」と苦笑した。

 1年後。社会人大会2連覇の王者として日本選手権の早大戦に臨んだ平尾は、同じ場所で組んだ円陣で、前年とは異なる激しい言葉でフィフティーンを鼓舞した。

「つまらん勝ちならワセダにくれてやれ!」

 そこから始まった80分間は、まさしく圧倒と呼ぶしかない完璧なゲームだった。前年を上回る58─4のスコアで日本選手権史上最多得点、最大得点差を再び塗りかえる勝利。赤黒のジャージーを完膚なきまでに粉砕した。

 後に平尾は「あの試合は僕にとっては非常に燃えた試合だったんですよ。日本のラグビーってワセダの考え方が主軸でしたからね」と明かした。

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