スタンドから見る日本のスクラムは美しかった。「折り目正しい」という言葉が浮かぶほど、8人ががっちりとまとまり、堅牢なイングランド・スクラムに五分に対抗した。最初のスクラムを見て「これなら戦える」と確信した。
イングランドは国民性なのか、トリッキーなことはしてこない。予想通り、「キックの鬼」と化した。日本のSO、松田力也は戦前に練っていたプランをこう説明する。
「自分たちもキックで応戦するというプランで、実際に上手く行ったと思います」
具体的には、相手防御線裏へのキックを多用する。昨年11月、日本はイングランドのラッシュディフェンスに苦しめられ、攻め手を失った。FLのリーチマイケルが「こっちが修正しようとしても、それをまた上回るスピードで圧力を受けちゃって」と振り返るほど、選手たちは苦しみぬいた。この日見せた多彩なキックは、防御の出足を封じるためのものだった。
この戦略が奏功、前半は緊迫感あふれる展開に。日本はペナルティゴール(PG)3本、イングランドはPG2本に日本のラインアウトからのミスで手にした濡れ手で粟のトライ1本(ゴール成功)で、9対13で折り返す。
そして後半14分に日本が12対13と1点差に追い上げ、番狂わせの匂いが漂い始めたかに思われた。最前線に立っていたリーチが見たのは相手の戸惑いだった。「イングランド、不安そうな顔してました」。
日本代表からは「危険な香り」がしてこなかった。
ところが、その匂いが濃厚になることはなかった。後半16分、ゴール前でイングランドのノックオン――かと思いきや、頭に当たったと判定されてコートニー・ロウズのトライが認められた。この「頭を使ったトライ」で試合のバランスが崩れた。
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