
突如として“虎の村神様”が降臨したあの一戦。まさかの采配に3万5000人はどよめいたが、阪神ナインはベンチで、ブルペンで、マウンドで何を思い、何を語り合いながら戦っていたのか――。
洞察力の鋭い捕手としても知られる坂本誠志郎はその瞬間、さりげなく視線を三塁側ベンチに移した。
1-0で迎えた7回裏。巨人の2番・丸佳浩からフェンスぎりぎりの左飛で2アウト目をもぎ取った直後、「誠志郎!」と叫ばれた気がした。キャッチャーマスクを手に持ったまま、顔の角度を少しだけ左へ動かした。すると岡田彰布監督、安藤優也投手コーチら首脳陣が「マウンドに行け」とジェスチャーしていた。とっさに悟った。
〈あっ……あと1人なんや〉
4月12日の東京ドーム。2年ぶりに一軍登板した24歳・村上頌樹は7回2死の時点で、まだ1人も走者を許していなかった。完全試合でプロ初勝利を達成すれば日本球界史上初の快挙。3万5474人の大観衆もザワつきを隠しきれなくなる中、坂本は1人逡巡しながらマウンドに向かった。
〈でも、なんて言えばいいんやろ〉
降板の予感は確信に近かった。とはいえ決定事項ではない。一方で2番手投手が肩を作る時間を稼ぐ必要もあった。悩んだ末、絞り出した一言は「高さに気をつけて」。ありきたりな言葉しか浮かばない自分に苦笑いしつつ、マウンドに背を向けた。続く3番・梶谷隆幸は初球の低めカットボールで一ゴロ。一瞬だけホッと一息ついた頃、ベンチ後方十数mに位置するブルペンはすでに騒然としていた。
4番・大山悠輔は7回裏が終わると、一塁守備から三塁側通路にあるトイレに向かった。慌ててベンチに戻ると、村上のもとに代わる代わる野手が詰め寄っていた。
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