過去20年、1番人気に推された馬の勝率は45%。だがデータが通用しない波乱が起こるのもまたダービー。5年前の如き大伏兵の再来を穴党は待ち望むのだ。
「競馬に絶対はない」とよく言われるけれど、絶対に破られることはないと思えるダービーのレコードがいくつかある。たとえば出走頭数(1953年の33頭)、あるいは入場人員('90年の19万6517人)。
'49年のダービーでタチカゼが樹立した単勝配当レコードもそのひとつだ。23頭立ての19番人気で、払戻金額は実に5万5430円也――。フルゲートが18頭に制限された現在、ダービー以外のレースでも滅多に売っていない大穴は、間違いなく未来永劫のレコードだろう。
同馬を管理した伊藤勝吉調教師は、東の巨星・尾形藤吉調教師と並び称された関西の重鎮で、まだ手が届いていないダービーのタイトルに人一倍の執着心を抱いていた。タチカゼには当初、大きな期待をかけていたが、調整に順調さを欠いた馬は直前のオープン戦で6頭立ての5着に大敗。
羨ましくて、妬ましくて、身悶えしてしまう。
この年は抜群の戦歴を誇る大本命馬トサミドリが控えていたこともあり、戦う前から白旗を掲げた伊藤は親友の尾形に管理を委ねて関西へ帰ってしまう。レースの実況は京都競馬場の事務所で聞き、勝ったと分かるとその場にへたり込んだそうだ。
調教師が崩れ落ちたのだから、単勝550倍超えの爆穴も無理からぬところ。しかし当時の競馬雑誌に載っていた的中票数(72票)の内訳には「千円券一枚」と記されている。同年のダービー1着賞金は60万円で、ほぼ同じ額を一撃で仕留めた計算。70年以上も前の出来事とはいえ、羨ましくて、妬ましくて、身悶えしてしまう。
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