#1003
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「ぼく、残ってますか?」「日高のディープに」ロジャーバローズはなぜ勝てた?【2019年日本ダービーで12番人気】
2023/05/16
本命馬たちを尻目に府中のゴール板を先頭で駆け抜け、ファンを驚愕させた去年の単勝9,310円のビッグな波乱劇。生産者、馬主、調教師の回想をもとに、実力の底を見せないままターフを去った最新王者の誕生からダービー制覇までを追う。(初出:Number1003号[ダークホースの新常識]ロジャーバローズ「12番人気の戴冠秘話」)
「やっとでたぞ!」
うまれてきた仔を見た飛野正昭は思った。この馬は必ず大仕事をしてくれる――。
仔馬の母馬はリトルブックという、イギリスからの輸入馬である。未勝利馬だがジェンティルドンナの母ドナブリーニの半妹(母がおなじ)になる。ジェンティルドンナが“牝馬三冠”を達成した'12年、イギリスのせり会社タタソールズ社から送られてきたリトルブックのカタログを見た飛野は、せりに行くジェイエス(馬専門の商社)の社員に依頼して、落札してもらったのだ。インヴィンシブルスピリットという種牡馬の仔を宿した価格は23万ギニー(約3240万円)。それまで飛野が買った、もっとも高い牝馬だった。
飛野牧場(北海道日高郡・静内)はつねに15頭ほどの繁殖牝馬を揃えている。うまれる仔は毎年12、13頭で、従業員6人。日高の平均的な牧場ではこれが限界だ。飛野は牝馬の質を高めるために、大牧場の優秀な繁殖牝馬の近親を買い集めてきた。リトルブックもその1頭である。
1億円の保険、名前はミリオン。
'13年の春に最初の仔を出産したリトルブックに、飛野はディープインパクトを種付けした。ディープインパクトは種牡馬となった'07年から種付けしている。
飛野は若いときに社台ファームの吉田善哉にかわいがってもらった。吉田について海外の牧場やせりに行き、ノーザンダンサーやニジンスキー、セクレタリアトなど世界的な名馬を直に見てきた。そのなかで、もっとも強烈な印象を受けたのがバックパサー('60年代のアメリカ最強馬)だった。
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photograph by Takuya Sugiyama