あるベテラン記者の記憶である。
1985年10月、阪急ブレーブスの本拠地・西宮球場で試合前練習を終えた上田利治監督が、スタンドを見上げてふっと呟いた。
「きょうもお客さんは少ないなあ……何人、入っとるんや?」
そこでそのベテラン記者が一塁ベンチ上の観客を数えて、25人であることを告げる。
「なんや、25人か……25人ならベンチ入りの人数やないか! ベンチに入れたれ、入れたれ! !」
自虐的な笑いを浮かべながら上田は、こう語ってベンチ裏へと消えていったという。
「人気のセ、実力のパ」と言われた昭和のプロ野球。その1つの象徴が当時の阪急だった。福本豊外野手や山田久志投手ら個性的な選手を揃え、'71年から'85年までの15年間で7度のリーグ優勝を飾り、'75年から日本シリーズも3連覇。上田が監督に返り咲いた'81年以降も'84年にリーグを制した。
特製トートバッグ付き!
「雑誌プラン」にご加入いただくと、全員にNumber特製トートバッグをプレゼント。
※送付はお申し込み翌月の中旬を予定しています
photograph by KYODO