ロンドン五輪代表、最大の挑戦BACK NUMBER
誰がロンドン五輪の「顔」になる?
サッカーU-22代表に漂う微妙な空気。
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph byKYODO
posted2011/02/27 08:00
アジア大会前はそれほど期待も注目もされていなかったU-21サッカー日本代表。サッカーでは初となる金メダルを獲得して、日本サッカー史に新たな歴史を刻んだ
キャプテンの宮本自ら年下の小野に協力を呼びかけた。
だが、1次予選香港ラウンドを戦う中、チーム崩壊の危機を感じた宮本は、黄金世代の中心的存在の小野に対して「このままじゃ最終予選は乗り切れない。チームをひとつにするために力を貸してくれ」と説得。まずは食事の際、各テーブルにお互いの世代を混ぜるように提案した。そうして、コミュニケーションを取るように仕掛け、チーム内の壁を融解していったのだ。
アテネ五輪でもキャプテンの那須大亮が、下の世代の今野泰幸らに積極的に声を掛けることで、なんとか融合することに成功していたのだ。ひとつひとつの具体的なコミュニケーションの事例を考えても、若い世代のチームにおいてキャプテンが果たす役割は非常に大きいということが分かる。
それは、なぜか。
若い世代ほど、同い年だけで群れたがる傾向がある。
若い世代では同じ年齢での仲間意識が特に強く、その世代だけで群れたがる傾向にある。
そこに少しでも違う世代が合流すると、年齢が近いがために過剰に意識し「自分らの方がやれる」「相手に負けたくない」というような心理が非常に強く働くのだ。無意識に敵対心を持ち、壁を作ってしまう。これは、お互いのプレーのレベルが高いと、より顕著になる。
だが、一旦自分たちの世代を代表するキャプテンが先頭に立って音頭を取り始めれば、比較的簡単に他の選手は右に倣う傾向も強い。それゆえ、強い求心力を持つキャプテンという存在がA代表よりもはるかに重要になるのだ。
重要なポストのため、当然キャプテンの選考はA代表以上に難局を極める。
「全体を見渡せる力がある」「レベルがズバ抜けている」等々、同世代でも一目置かれる存在の選手でなければならない。その選手がリーダーシップを発揮することで、チームは急速に、ひとつにまとまっていく。それが若い世代のチームの特有の性格なのだ。
現在のロンドン五輪代表は、本格的にスタートしたばかりなので、まだ世代間に目に見える対立はない。レギュラーの椅子を争うレースも熱はなく、むしろ気持ち悪いくらい平穏な空気が漂っている。重要なはずのキャプテンの存在もかなり稀薄だ。中東遠征では、山本康裕がキャプテンマークを付けていたが、まだ自分のことで精一杯という感じが察せられた。