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英才教育の父に「彼は素晴らしい父親。ただ…」アリサ・リュウの“物語”は母国でどう受け止められた? 使用楽曲が再ブーム、地元アイス店は「生涯無料」に
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一野洋Hiroshi Ichino
photograph byAsami Enomoto / JMPA
posted2026/02/27 17:05
ミラノ五輪で2つの金メダルを獲得した米国のアリサ・リュウ。その波乱万丈な競技人生は母国でどのように受け止められたのだろうか?
地元のアイスクリーム店は「生涯無料」に
そしてこの金メダルは国家的栄光としてだけでなく、地元の物語としても広がっていく。
米国のライフスタイル系メディア『Parade』は、彼女の優勝を祝うベイエリアの粋な動きを紹介した。創業1894年のオークランドの老舗アイスクリーム店『フェントンズ・クリーマリー』が、彼女に「生涯無料のアイスクリーム」を贈るとインスタグラムで発表したのだ。
「金メダルは貴重だが、生涯無料のアイスクリームはそれ以上にレアかもしれない――」
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そんなユーモアを交えた祝福だった。リュウはリッチモンドで育ち、オークランド・アイスセンターで練習を重ねてきた。フェントンズは彼女の快挙を地域全体の勝利だと称え、帰郷時には祝賀会を開きたいと表明。「生涯アイスクリーム? 本気です」と投稿した。コメント欄には祝福があふれ、金色をテーマにした特製サンデーのアイデアまで飛び交った。
さらにオークランド市長のバーバラ・リー、オークランド出身の元NFL選手であるマーショーン・リンチまで祝福の声を寄せたと報じられている。それはスポーツの枠を超え、地元が自分たちの仲間を誇る瞬間だった。
リュウが公言してきたのは「再びスケートを楽しむこと」。その姿勢が、ベイエリア全体の共感を呼んだ。“勝ったから祝う”のではなく、“戻ってきたから祝う”。その温度が、今回の金メダルをより人間味のある物語へと押し上げた。
本来であれば、彼女の背景は議論を呼びかねない要素も含んでいる。だが今回、主流メディアの論調は対立ではなく、成熟と再生に焦点を当てた。父を悪役にするのではなく、娘が境界線を引く物語として。特殊な家族像を問題化するのではなく、コミュニティが支える成功例として。そこにあったのは批判よりも、受容だった。
今回のアリサの金メダルは、勝利の物語であり、移民の物語であり、そして自分の人生に“線を引く”勇気の物語だった。氷の上で輝いた金色は成功の色であると同時に、自由の色でもあった。

