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「今ある体をどれだけ生かせるかを重視」今季大躍進…女子ハードル・中島ひとみはナゼ30歳でも100mが速くなった? まさかの“衝撃スプリント”秘話
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加藤秀彬(朝日新聞)Hideaki Kato
photograph byKiichi Matsumoto
posted2025/12/30 11:03
今季終盤には専門外の100mでも好記録をマークした女子ハードルの中島ひとみ。スプリンターには珍しい細身のフィジカルでも躍進できたワケは…?
「天候がよくて、全力で走っていたら?」。そう尋ねると、中島は冷静だった。
「そもそも『マックス』では走らないようにしていました。ハードルは決まった区間を刻む競技だけど、100mは制限なく歩幅を広げられてしまう。そのスピードに慣れていなかったので、肉離れが怖かったです。快調走というか、8割の気持ちで走ったのがよかったのかもしれません」
思いっきりスタートダッシュをすると、すぐに顔が上がってしまうのがハードラーにありがちな癖だ。意図的に顔を下げる時間を長くし、いつもよりピッチを上げすぎずにゆったりと。そして、中盤以降につなげる走りで駆け抜けた。
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「100mって奥が深いな、と。走るだけが一番難しい。ハードルは技術でタイムが大きく変わるけど、100mは本当に、己のスピードで勝負。そういう陸上の面白さを改めて感じた瞬間でした」
中島が立てていた11秒60の目標は、100mHで世界陸上に出るためには不可欠な数字だった。それまでの100mの自己ベストは11秒88で、実現すれば0秒28の更新になる。
一方のハードルでは、昨季出した100mHの自己記録が12秒99。参加標準記録の12秒73まで上げるには、0秒26の更新が必要だった。
つまり、目標通りにスプリントのタイムを上げられたら、自ずとハードルでも標準記録に届く――という計算だ。
30歳で100m記録を大幅更新…なぜ速くなった?
とはいえ、30歳を迎えたシーズンで、100mの自己記録を0秒3近くも更新するのは驚異的だ。何が中島の足を速くしたのか。
中島はシーズンに向けて重視したことを「今ある体をどれだけ生かせるか」だったと語る。初めて100mHで12秒台に突入した前年でさえ、「自分のマックスを出せている気がしない」という感覚があったからだ。

