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広岡達朗が言った「あんなことができるのは星野仙一しかいない」ヤクルト初優勝のウラに“まさかの直球勝負”「星野さんのボールの握りが見えたんです」 

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長谷川晶一

長谷川晶一Shoichi Hasegawa

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posted2025/12/22 17:02

広岡達朗が言った「あんなことができるのは星野仙一しかいない」ヤクルト初優勝のウラに“まさかの直球勝負”「星野さんのボールの握りが見えたんです」<Number Web> photograph by KYODO

「打倒巨人」に執念を燃やした中日・星野仙一。1978年、そんな星野と初優勝を目指すスワローズナインの思いが交錯した試合があった

広岡達朗「あんなことができるのは星野しかいない」

 広岡の長女である祥子さんの発言を紹介したい。

「優勝した年のことを細かく覚えているわけではないんですけど、その後も父はずっと星野さんの名前を挙げていました」

 言葉の意味がわからず、「どういうことでしょうか?」と聞き返した。

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「巨人は読売新聞で、中日は中日新聞が親会社ですよね。同じ新聞社として、中日は巨人に勝たせたくなかった。それに星野さんは《打倒巨人》の人でした。だから、星野さんはヤクルトの味方をしてくれた、肩入れしてくれたんじゃないのか? 父は“あんなことができるのは星野しかいない”と言っていました。その真意はわからないけど、“肝が据わっている”という意味だと、私は受け取りました」

 杉浦の発言を思い出してほしい。杉浦は「ボールの握りが見えた」と言い、「スライダーを投げる場面でストレートが投じられた」と語った。

 さらに、傍証となる証言がある。井原慎一朗の言葉だ。「奇跡の3戦連続サヨナラ勝利」について尋ねていたときのことだ。井原はこんな言葉を口にしている。

「あの3日連続サヨナラ勝利、ドラゴンズのピッチャーは星野さんでしたよね。あれは星野さんだったから、ド真ん中の直球勝負で挑んだんだと思います。それもあって、バッターも狙いやすかったんじゃないのかな」

 こちらから尋ねたわけではないけれど、井原もまた「星野」と口にした。

 もちろん八百長、あるいは片八百長だと指弾するつもりはない。けれども、ジャイアンツに対して人一倍のライバル心を持っていた星野が、「打たれても仕方がない」、あるいは「これを打てなければ、ヤクルトの実力もその程度のものだ」との思いで、あえて直球勝負を挑むことで、スワローズに肩入れしたという可能性は決して小さくないのではないか?

 星野が鬼籍に入った現在、その真相は藪の中である。90代になった今、広岡にはこの件に関する記憶はない。けれども、祥子さんが証言しているように、少なくとも広岡はかつて、「あんなことができるのは星野しかいない」と感じていたのもまた事実である。

<続きは書籍でお楽しみください>

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