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中田翔“引退後の人生プラン”は野球少年の指導?「上から叩け」ではなく「縦振り」を…巨人移籍で掴んだ打撃論のアップデートとは
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倉世古洋平(スポーツニッポン新聞社)Yohei Kuraseko
photograph byJIJI PRESS
posted2025/12/24 17:01
プロ野球OBによる日韓戦に出場し、ホームランを放った中田翔さん(2025年11月)
プロ野球界を見渡せば、「上から叩く」という打法をやめて「縦振り」に変えて成功した選手がいる。逆に、馴染めずに伸び悩む若手もいる。当たり前の話だが、簡単に答えが見つかるほど甘い世界ではない。だからこそ、中田さんは「指導者といろいろ話す中で、プロまで来るレベルの選手は自分で考えられる力があるから、いろんなことにチャレンジすることが大事だと思う」と球界の後進にメッセージを送った。
むしろ、中田さんが心配するのはアマチュア球界だ。あふれかえる“バッティングのハウツー”の影響を受けるのは、子どもたちではないかと危惧する。
「アマチュアの子たちは引き出しが少ない分、(教わってきたことと異なる情報が入ってきた場合)どうしたらいいというのが分かっていないと思う」
真剣で紙を切る王貞治
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野球経験者なら、一度は聞いたことがあるのではないだろうか。「両肩を地面と平行に回しなさい」、「バットのヘッドを立てて上から振りなさい」と。この教え、世界のホームラン王、王貞治さんがきっかけで広まったのではないかと、私は考えている。
刀で、ぶら下がった紙をスパッと切る。「一本足打法」を授けた荒川博コーチとの有名な練習シーンは、前段落の「肩を地面と平行」、「上から」の2つを体現している。ところが、打席での王さんの実際のスイングは全く異なる。映像で見る限り、王さんのスイングはヘッドが早く下がり、長いインパクトゾーンで球を捉えている。
練習でのイメージづくりと打席でのスイングは異なる。本人の感覚と実際の動きも異なる。この大前提を指導者が認識していないと、「いいね!」の数が多い動画に踊らされ、選手を沼に引きずり込んでしまうことになる。
中田さんは、技術指導は非常にデリケートであることを熟知している。だからこそ、大阪桐蔭高で高校通算87本塁打の最多記録(当時)をつくり、プロになってからは日本代表の主軸も務めた輝かしい経歴を持ちながら、自分の経験値だけで語ることを避ける。
「俺が縦振りの方がいいと思っていても、小さい子にそのスイングを教えるのは難しいけどね。そのために今、勉強しているんだけど。昔から言われている上から叩きなさいという指導法とは違った引き出しを、若い子や子どもたちに教えていければいいなとは思っている」
解説者やテレビ番組で活躍するかたわら、野球界の未来のために一肌脱ぐというセカンドキャリアのプランを描いている。教えを受けた「第二の中田翔」がどんなスイングをするのか。今からちょっと楽しみだ。



