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中田翔“引退後の人生プラン”は野球少年の指導?「上から叩け」ではなく「縦振り」を…巨人移籍で掴んだ打撃論のアップデートとは
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倉世古洋平(スポーツニッポン新聞社)Yohei Kuraseko
photograph byJIJI PRESS
posted2025/12/24 17:01
プロ野球OBによる日韓戦に出場し、ホームランを放った中田翔さん(2025年11月)
通算309本塁打の中田さんの打撃が大きく変わったのは、2021年8月に巨人に移籍した後だろう。MLBでよく見かけるような前傾が強い構えになった。試合前練習では、ヘッドを返さずにボールを捉えるドリル(反復練習)を繰り返すなど、海の向こうのエッセンスを取り入れていた。「上から叩く」をやめ、いわゆる「縦振り」を目指していた。
2022年のシーズン中、甲子園での阪神戦が中止になったある日のことだった。阪神の番記者の筆者は、室内練習場からビジター側ロッカールームに引き揚げてくる中田さんと遭遇した。ちょうど甲子園のエントランスロビーには、お客さんに販売できなかったお弁当が、関係者向けに安売りをされていた。愛嬌あるコワモテはそこで足を止め、「うまそうだな」と物色しながら、スイング改造の経緯を説明してくれた。
「巨人は人気球団だから、結果に対してもの凄くシビア。調子が上がるのを待ってくれない。早い話、打たなければいけない。縦振りにしたのは、もっと打つため。いいものは取り入れていかないと」
「点」ではなく「線」でボールを捕える
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「縦振り」とは、文字通り、バットを縦に使うイメージで打つ打法だ。テニスのフォアハンドのような軌道と言え、ゴルフのスイングの体の使い方も親戚のようなものだといえる。クリケットの打ち方もよく例えに出される。野球では、バットのヘッドを早く下げる分、インパクトゾーンを長くできるメリットがあると考えられている。「上から叩け」とは真逆の打ち方だといえる。
中田氏の狙いもインパクトゾーンにあった。直球の球速が上がり、カットボールやツーシームといった変化球も高速化が顕著になった投高打低の時代。上から叩く「点」ではなく、縦振りの「線」で捉えるイメージでないと太刀打ちできないと、先月会った時に強調していた。
「ピッチャーの球速帯がすごく上がっているから。俺が若いときのように、150キロが出たら、ベンチで『おおお、コイツ、速いぞ』みたいな状況じゃない。今は150キロを投げて当たり前という世界になってきているわけだから。そこで上からボールにアジャストしにいくと、ミスショットだったり、ファウルだったり、ファウルチップが増えてしまうという感覚がある。昔は上からボールを叩きなさいと言われていたけどね、俺の中では縦振りの感覚の方がそうしたボールに対応しやすいんじゃないかと思う」
NPBが今年4月に公表したデータでは、プロ野球選手の現役生活は平均でたったの6.3年しかない。若くして退場を余儀なくされる厳しい世界で、36歳までの18年間現役をはり続けた中田さんの言葉には重みがある。


