ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
敗者・那須川天心の“誤算”「焦りですか? ありましたね」公開採点で生まれた“迷い”…井上拓真陣営「いける、これは勝てる」神童はなぜ敗れたのか?
text by

渋谷淳Jun Shibuya
photograph byHiroaki Finito Yamaguchi
posted2025/11/26 17:01
WBC世界バンタム級王座決定戦で井上拓真に敗れた那須川天心。戦略面での誤算はどこにあったのか
「これは勝てる」「焦りがあった」両陣営の思惑
拓真陣営の大橋秀行会長が振り返る。
「(那須川の)1ラウンドの左フック、2ラウンドの右カウンター、前回よりも数段強くなっていたのでこの試合はちょっと厳しいなという不安が第一にきました。公開採点では若干、もしかしたら負けてるんじゃないかと思ったけど同点だった。いける、これは勝てると確信に変わりました」
一方の那須川陣営、浜田剛史代表はこの採点に顔をしかめた。
ADVERTISEMENT
「3回に盛り返されて、4回はまたストップできているからいい流れかと思いましたけど、イーブンだったので、このやり方ではポイントにならないのかと。実際に焦りがあったのは事実ですね。そこから井上サイドは押せ押せムードできましたから。天心のボクシングは下がりながらでも打つ。それがあまりポイントになっていないので、どこかで前に出ていいイメージを、というのが焦りになりました」
両首脳の言葉通り、中盤は拓真がペースを握っていった。5回にワンツーをクリーンヒットし、以降はアッパーを含めたコンビネーションを増やしていく。特にガードの外から入れるコンパクトな右フックが効果的だ。それでも那須川は決して一方的にやられているわけではなく、局面だけ見ればいい左ボディを打ち込むシーンもあった。ただ、いかんせん後手という印象は否めなかった。
那須川の参謀、粟生隆寛トレーナーも渋い表情でそれを認めた。
「相手の出方に驚かされたところはなかった。ただ、その中でこちらからボクシングを作りたかったのに、後手に回ってしまった。自分からもっと動いて、相手のやりづらいようにやればもっと違う展開になったと思う」
拓真は昨年10月、まさに後手を踏み続けて敗れた堤聖也戦の反省を生かし、常に圧力をかけながら先手を取るボクシングを遂行した。余裕の出てきた拓真は頭をつけての接近戦を仕掛けたり、中間距離で戦ったりと引き出しの多いところを見せていく。
浜田代表は「7回に頭つけて打ちに行ったわけですけど、頭をつけての接近戦、その練習に関してはあんまりうまくいってなかったんですね」とも明かした。那須川はペースをつかめず、8回を終えての公開採点はイーブンが1人、残りが77-75、78-74で拓真のリードとなった。

