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「タクマに謝りたい。テンシンが勝つと思っていた」英国人記者が断言した井上拓真と那須川天心の“明確な差”「ついに“兄の影”から抜け出した」
posted2025/11/27 11:02
戦前は「那須川天心が有利」と予想していたトム・グレイ記者。井上拓真のボクシングを興奮気味にレビューした
text by

杉浦大介Daisuke Sugiura
photograph by
Takuya Sugiyama
井上拓真の戦いぶりは見事だった。11月24日、トヨタアリーナ東京で行われたWBC世界バンタム級王座決定戦で井上拓真(大橋)は那須川天心(帝拳)に3-0判定勝ち。国内のビッグファイトを制し、キックボクサー時代からスーパースターだった那須川にキャリア初黒星をつけた。
勝敗を分けた要素は何だったのか。この戦いを総括するため、リングマガジンの編集人を務める英国人ライター、トム・グレイ氏に意見を求めた。グレイ氏は軽量級、アジアのボクシングにも精通しており、今年9月には日本に足を運んで井上尚弥(大橋)対ムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)戦を現場取材している。それほどの日本ボクシングエキスパートも、井上拓真が大一番で展開した鮮やかなボクシングに驚きを隠さなかった(以下、グレイ氏の一人語り)。
ディスカッションは謝罪から始まった
まず最初に、私はタクマとイノウエ陣営に謝罪をしなければいけない。私は戦前の予想でテンシンを勝者に選んでいたからだ。
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いくつか理由があった。テンシンのハンドスピードはタクマにとって本当に厄介になると思っていたし、何よりタクマは1年以上試合をしておらず、セイヤ・ツツミ(堤聖也)に敗れたあとに引退を考えていると報道されたことすらあった。だからタイミング的に、今戦はテンシンの方が有利だと思っていた。
実際に最初の2ラウンドはテンシンがとても良かった。しかし、第2ラウンドを終えた後、タクマがコーナーに戻ってシンゴ(井上真吾トレーナー)に向けて笑った瞬間があった。“もう見切った。相手がどういうタイプなのか完全に分かった”とでも言うように。実際に3ラウンド以降、試合はまったく別物になった。

