敗者・那須川天心の“誤算”「焦りですか？ ありましたね」公開採点で生まれた“迷い”…井上拓真陣営「いける、これは勝てる」神童はなぜ敗れたのか？ 

敗者・那須川天心が明かした“迷い”

　那須川がこのときの心境を次のように表現した。

「焦りですか？　まあ、ポイント差を聞いたときにありましたね。どうしようかな、初めてだな。スパーリングで自分が良くないパターンのときの動きになっていたので、そこをどうしようかなという。試合中に迷いが出ると判断が遅れるので、そこを先に取られちゃったなというのがありますね」

　那須川は9回、流れを変えようと足を使い、10回にはガードを下げた状態からいきなりアッパーを繰り出すなど、中盤は見せなかったトリッキーな動きも入れて懸命に状況を打開しようと試みた。しかし、拓真は崩れない、惑わされない。「自分のすべきことを最初から最後まで淡々とやる」。ブレない拓真が那須川に反撃を許さなかった。

ADVERTISEMENT

　11回、拓真はここが勝負所とギアを上げて攻勢に出る。世界戦だけで7戦目という拓真が、この日初めて12ラウンドを経験する那須川とのキャリアの差を見せつけた場面だ。最終回、那須川は懸命に前に出たが形勢は逆転せず。終了のゴングが鳴ると、渾身のガッツポーズを決めたのは言うまでもなく拓真だった。

試合終了直後、勝利を確信して雄叫びをあげる井上拓真　©Takuya Sugiyama

　スコアは116-112が2人、117-111が1人。那須川は勝者を称え、正座して四方にあいさつしてリングを降りた。会場に沸き起こった拍手には温かみが感じられた。

　試合後、敗因を問われた那須川は明確な答えが見つからないようでありながら、ユーモアも交えながらいくつかの答えを絞り出した。

「迷いですよ。どうしようという。ほんと格闘技って一瞬の間が大事じゃないですか。そこを経験の差、ボクシングの深みの差でやられたなというのがあります。またほんと、ボクシングが好きになっちゃいますよね」

「拓真選手は全体的に上手かったですね。来ると思ったら来ない。キックは3ラウンドで終わるから来るじゃないですか。『はじめの一歩』を読んだとき、ボクシングは12ラウンドあるからまったく来ないという選択肢もあるというのを知って、そういう展開もあるんだなと思ったら、本当にそうなりましたね」

【次ページ】　「やり続けますよ」言葉に力が入った瞬間