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「もう即決でした。本当に楽しみでしかない」井上拓真が語る那須川天心との王座決定戦オファーを受けたワケ「自分としても、ここで戦う運命なのかなって」
text by

二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byTakuya Sugiyama
posted2025/11/15 11:00
那須川天心とのWBC世界バンタム級王座決定戦を前にその心境を語った井上拓真
なぜなら試練に立ち向かうマッチメークこそが自分が歩んできた路線だからだ。高校卒業を待たず2013年12月にいきなり日本ランカーと対戦して判定勝利でプロデビューを飾ると4カ月後のプロ第2戦では世界ランカーを同じく判定で下している。そして5戦目で東洋太平洋スーパーフライ級王座を獲得。プロ13戦目の2018年12月に、WBC暫定世界バンタム級王者となり、初防衛戦に失敗してからは栗原慶太、和氣慎吾、古橋岳也といった同級の実力者を次々に下して世界挑戦のポールポジションに再び就いている。もしどこかで下手な試合をしてしまえば、再び世界にはたどり着けなかった。そのヒリヒリ感が彼を成長させ、WBA王者となってからも強敵の元IBF世界スーパーフライ級王者ジェルウィン・アンカハスに9回TKO勝ちを収めている。
デビュー戦で日本ランカーと対戦し、5戦目で地域タイトルを獲得しているのは那須川も同じ(WBOアジアパシフィック王座)であり、那須川がデビューした同じ興行で拓真はWBA王座を奪取しているという共通項や縁もある。拓真にとってヒリヒリさせてくれる相手であり、モチベーションは否応なく引き上げられている。
「プロ8戦目で世界戦まで来ているわけですから、その成長速度というのは正直、凄いなと。でも、すべての面において自分が上回っていると思っています。いろんな引き出しを使いながら勝つだけですね」
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天性のスピード、反応力、そしてアドリブ力といったところが那須川の強みと言えるだろうか。一方で拓真の場合はアマ仕込みのテクニックに長けたオールラウンダー。派手さはなくとも我慢強く、冷静に勝ち筋を探り当てていけるのが真骨頂だ。
試合のポイント「一つ言えるとすれば…」
続けて試合のポイントを尋ねると、彼はこう応じた。
「試合前に、その部分を話すのはあんまり好きじゃないんです。というか、実際に戦ってみないと、どうなるかなんて分からないじゃないですか。だから自分としてはいろんなイメージを持っておく。ただ一つ言えるとすればしっかり完封して勝つ、ですかね」
完封――。
この言葉を聞いて真っ先に思い浮かぶのが、兄の尚弥が今年9月、スーパーバンタム級で一番の難敵としていたムロジョン・アフマダリエフに対し、出入りの激しいヒット&アウェイで確実に着弾させるとともに被弾を許さなかった戦い方である。拓真からすれば、格段驚くものでもなかった。

