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プロ野球PRESSBACK NUMBER
進路面談で「プロを目指せ!」「この先生は何言ってるんだろう?」が現実に…ヤクルト育成ドラフト1位・小宮悠瞳と熱血先生の“育成上等”ド根性
text by

杉園昌之Masayuki Sugizono
photograph byTomosuke Imai
posted2025/11/14 17:01
川崎総合科学高からヤクルトに育成1位指名された小宮投手。学校史上初のドラフト指名をもたらしたのは、監督でもある遠藤先生との熱い師弟関係だった
ドラフト開始から約2時間半が経過。時計の針は19時半を回っていた。いよいよ“本番”の育成指名が始まる。順番はヤクルトからだ。プロジェクターのスクリーンに指名選手の名前が大きく映し出されるよりも早かった。アナウンスの第一声が聞こえた瞬間、一番に反応したのは遠藤監督だった。
先生が最初に跳び上がって
「小宮悠瞳(こみや・ゆめ)の『こ』の時点で、私が最初に跳び上がっていました。そのあと、泣いている小宮と抱き合って喜んだんです」(遠藤監督)
ずっと下を向いていた本人は、すぐに状況を把握できなかった。周囲が大騒ぎを始めるなか、涙が止まらなくなっていた。体に力がまったく入らず、腰が抜けたような状態になっていると、仲の良い同期が肩を支えて、立たせてくれた。
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「うれしくて、あそこまで涙を流したのは人生で初めてです。だいぶ、泣きました。たとえ背番号3桁でも、同じプロ野球選手。支配下でも育成でも喜びは、変わらないです。本当に夢が叶ったのかって」
自信を失って学校までさぼっていたときも
硬球を握って、まだ2年半である。ふと左手に目を落とすと、野球から心が離れた空白の2カ月も思い出す。2023年9月の桐光学園戦は、小宮の記憶から消えることはない。1年時の秋季大会で初めて公式戦にリリーフ登板したが、7安打7失点で1イニングもたずに降板。強豪私立との力の差をまざまざと感じ、「自分は打たれるためにマウンドに上がっているんじゃない」と、自信も意欲も失せてしまった。
野球部から足が遠のき、学校までさぼりがちになる。朝、制服を着て自宅を出ると、川崎駅前の商業施設『ラゾーナ川崎プラザ』で時間を潰していた。ある日、母親とともに学校に呼び出された。2階の面談室で待っていたのは、クラス担任と、小宮が学ぶ建設工学科の科長でもある遠藤監督。当時のことは指導した側がよく覚えている。


