“ドラフト史上最大の事件”江川卓「空白の一日」とは何だったのか？ 巨人OBが激怒「制度が崩壊する」江夏豊「江川も大変なんやろうな」選手からは同情論 

巨人OB激怒「こんなのが認められたら制度が崩壊する」

　もっとも、江川自身がこんな手段に出ることをよしとしていたわけではないだろう。すべては巨人や周囲の人間が段取りをつけたことだった。だが、当時の世相や社会構造もあって、「わがままな自己主張をしている」とみなされた江川は日本中を敵にまわした。この日から、江川は球界きっての“悪役”として世間を騒がせることになる。

　当時のテレビ、ラジオ、新聞、出版等の各メディアは連日江川関連のニュースを取り上げ、挙げ句の果てに人格否定をも含んだバッシングで世間を扇動する。結果的に、巨人ではなく江川個人に非難が集中した。

　法的には問題ないと主張する巨人に対し、巨人を除く11球団の代表は断固容認せずの反対意見で一致。なかでも当時日本ハムの代表取締役社長兼球団代表の三原脩が「断じて反対だ。こんなのが認められたら制度が崩壊する」と怒り心頭で反対の意見を述べた。巨人OBの三原は1950年、ライバルの水原茂を監督に擁立するため球団から実質的に追い出された経緯があり、その私怨も少しは含まれていたかもしれない。だがそれ以上に、巨人の独善的な行動が許せなかったのだろう。

巨人がボイコットした1978年11月22日のドラフト会議。江川卓の交渉権を獲得したのは阪神だった　©JIJI PRESS

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　当時の他チームの主力選手たちに聞いても「政治が絡んでいるからよくわからない」「巨人のチームのことだから」と異口同音の答えが返ってくるばかりで、この件に関して口を滑らしたくない思いがありありとわかる。プロ野球界にこれほどあからさまに政治家が介入した事例はなかっただけに、ハレーションを警戒するのも無理はない。まさに前代未聞の事件だった。

「あいつも振り回されてかわいそうだよな」選手の本音

　では、巨人の内側ではどう受け止められていたのだろうか。長嶋茂雄一次政権の左のエースとして76年から79年まで4年連続二桁勝利を挙げた新浦壽夫は、当時をこう振り返った。

「新聞報道くらいしか僕らは内容を聞いてないので内部にいてもよくわからなくて、どうしても欲しいから獲ったんだなとしか言えないです。ただ、読売は“やったな”ですね。プランを立ててオーナーの正力（亨）さんがOKを出して動いたわけですから」

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