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引退のロッテ・美馬学「人生で一番重い“ありがとう”をもらった」2013年楽天V…星野仙一の“鬼の形相”が崩れた「いま“闘将”に伝えたいこと」
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梶原紀章(千葉ロッテ広報)Noriaki Kajiwara
photograph byNaoya Sanuki
posted2025/09/26 11:08
引退を決めた美馬学。楽天時代の恩師・星野仙一監督との思い出は尽きない
「今年はこれで終わりだな」が一転…
ただ、思い出深い2013年のレギュラーシーズンにおいては防御率4.12で6勝と、決して満足いく成績を残していない。右ひじが腫れ、レギュラーシーズン最終の登板は打ち込まれ早々に降板した。
自分自身でも「もう今年はこれで終わりだなあ。もう呼ばれることはないかもなあ」と思わざるをえない無残なピッチングだった。しかし、大事なポストシーズンで声がかかった。「投げられるなら、美馬を呼べ」。コーチ会議で指揮官自ら指名をしてくれたと聞いた。「シーズンの最終登板でこんな不甲斐ない投球をした選手を、こんな大事な試合で投げさせるかなあと」と美馬本人が誰よりも驚いた。
10月19日、クライマックスシリーズファイナルステージ第3戦。マリーンズ相手に初戦に勝利しながらも2戦目に敗れ、相手に勢いを渡して迎えたゲームだった。
「悲惨な状況」から見せた完璧な投球
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ブルペンでは1球もストライクが入らなかった。あまりにも悲惨な状況に嶋からは「真ん中に全力で投げてこい」とこれ以上ないシンプルな指示で声を掛けられた。初球を真ん中に投げ込みストライクを奪うとスイッチが入った。9回を投げて被安打4、完封勝利。14時5分に開始した試合は17時5分、3時間ちょうどで終了した。完璧な投球だった。
「本当に激動の一年だった。シーズンは厳しくて、自分としてはうまくいっていなかった。ポストシーズンから自分の力ではないなにかを感じていました。なぜか急に打たれなくなった。シーズン中はあんなに打たれたのに。ミスしても打たれない。正直、調子が良くなったという感覚はなかった。ただ、感覚は研ぎ澄まされて、なにもかもがうまくいくようになった。
交流戦ではあんなに打たれたジャイアンツも、日本シリーズでは抑えられた。見えない力が後押ししているとしか思えなかった。東北の人たちの想いもあった。日本シリーズは本当に異様な空気だった。球場も外も。あんなに人が来るのかと。見たことがなかった。1球1球の盛り上がりが凄かった。あれを超える経験はなかなかできないと思う。本当に幸せな経験」
忘れ得ぬ闘将の熱い魂
今も胸には叩き込まれた闘将の熱い魂がある。絶対に負けるものかと先頭を切ってチームを鼓舞する姿が瞼に焼きついている。だから美馬もいつも前へ、前へと前のめり。打者に対してガンガン攻め続けた。それはまさに身をもって教えてもらった勝負への厳しさ、そして1球に懸ける心意気だった。


