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「長い休みは必要かもしれないけど…」“まさかの予選敗退”はなぜ起きた? 北口榛花が涙を流して語った思い「中継には映らなかった」世界陸上ウラ側
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矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byNanae Suzuki
posted2025/09/20 18:35
世界陸上女子やり投げ。北口榛花はまさかの予選敗退となった
「(今シーズンの)ゴールだったんです」
ミックスゾーンでは、冒頭に北口が口にした「ゴール」という言葉の真意を掘り下げる質問が出た。北口は、「スケジュール的に(今シーズンの)ゴールだったんです」と、申し訳なさそうに苦笑いを浮かべたが、2025年の国立競技場が満員の観衆で埋まる光景を熱望し、つねに意識に置いて行動や発言をしてきたのが北口だった。
1年前のパリ五輪。8万人を収容するスタッド・ド・フランスで開催された陸上競技は連日満員の大観衆で埋まり、歓声や拍手が肌に直接響くほど盛り上がる中での試合となった。
無観客だった東京五輪を経験している北口は、モーニングセッションで行なわれた予選後のミックスゾーンで、高揚感を漂わせながらこんなふうに話していた。
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「朝からこんなにお客さんがいることに驚いていますし、そのエネルギーをもらって試合ができてとても幸せです。来年は東京の世界陸上でもこんな雰囲気を作れたらいいなと思っています」
決勝後のコメントならいざ知らず、予選の段階でここまで言及していたところに北口の陸上を愛する心、陸上で国立競技場を満員にしたいという思いがにじみ出ている。
まさかの予選敗退でも、北口が感じた幸せ
日本女子初のフィールド種目金メダリストとなって帰国した後は、陸上界の顔となってさまざまな角度から東京世界陸上をアピールし、そして迎えたこの9月。大会は日を重ねる毎にボルテージが上がり、北口が出た大会7日目のイブニングセッションは5万8643人が詰めかけた。北口の投擲をひと目見たい、北口のように世界のトップと伍す日本人選手を見たいという思いを持ってやってきた観客は多かったはずだ。
「日本で会場が(観客で)いっぱいになる競技場を見られてすごく嬉しかったです」
北口自身も目の前に広がる光景の幸せを存分に感じていた。
今後は「自分の頭がひじのことを考えないで全ての練習ができることが一番大事だと思います」と言うように、ひとまずは体を休ませる期間を設けるという。
「世界の借りは世界大会でしか返せないと思います。ここで決勝に残れなかったからといって人生終わりだとは思わないので、ちょっと長い休みは必要かもしれないですけど、強くなってちゃんと戻ってきたいと思います」
流した涙も糧にして前へ進む覚悟を見せた。

