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現役東大生が“井上尚弥”を研究? パリ五輪監督も絶賛…元テニス部の秀才が後楽園ホールで衝撃KO「“いまだ無敗”東大理系ボクサーの意外な経歴」
text by

杉園昌之Masayuki Sugizono
photograph byNanae Suzuki
posted2025/09/18 11:03
関東大学3部トーナメント・ライト級でチャンピオンになった伊藤朝樹(2年)。東大ボクシング部として23年ぶりの快挙だった
ラウンド中盤からは一気に反撃。積極的にぐいぐい前に出ると、果敢に打ち合った。長いリーチを生かし、つっかえ棒のように前の手の右をぐっと伸ばし、狙いすましたような左のクロスカウンターをクリーンヒットさせる。次の瞬間、目の前の相手はヒザから崩れ落ちて、キャンバスに転がった。レフェリーが急いで駆け寄ると、カウントを数えることもなく、試合を終わらせた。1ラウンド1分44秒、逆転KO勝利である。会場が沸き上がるなか、勝利を確認した伊藤はリングの上で3度も4度も飛び跳ね、我も忘れて雄叫びを上げた。歓喜のシーンを思い返すと、思わず苦笑が漏れる。
「普段はシャイな性格であまり感情を表に出すタイプではないんですけど……。あのときは試合中にパンチを被弾し、両目のコンタクトが外れていたんです。周りがはっきり見えていなかったので、観客の視線も感じなくて。だから、感情の赴くままに喜んだのでしょうね。東大に合格したときも、飛び跳ねて喜ぶことはなかったです。20年の人生で一番うれしかった瞬間だと思います」
東大ボクシング23年ぶりの快挙
あらためて試合の映像を見返すと、自らの戦いぶりには驚くばかり。ずるずると下がる悪癖は出ず、強気に押し返していた。まるで、人ごとのように振り返る。
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「コーチにも言われたのですが、いつもの僕とは違っていましたね。自分でもよく分からないのですが、これが底力なんでしょうか。カウンターのタイミングに関しては、不思議な力が働いたと思います。『こんなパンチを打てれば、戦術の幅が広がるのにな』と少し練習していたものが、とっさに出ました。人生でたまに訪れる幸運が、あの瞬間に来たのかなって。そもそもRSC勝ちはあっても、KO勝ち自体が初めてでしたから」
東大ボクシング部にとっても、関東3部トーナメントの個人優勝はウェルター級の妻鹿涼将とともに23年ぶりの快挙。ただ、大学ボクシング関係者に与えた伊藤のインパクトはより大きかった。




