炎の一筆入魂BACK NUMBER
ようやく開花したカープのスター候補・中村奨成は7年間何に苦しみ何を得たのか?《1大会6本塁打の甲子園記録保持者》
posted2025/09/15 11:02
本塁打を放ち、ベンチで祝福を受ける中村
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前原淳Jun Maehara
photograph by
Sankei Shimbun
ようやく、あの夏を超えた。9月11日、東京ドーム。2-2の9回に広島の中村奨成が描いたアーチは、チームの連敗を止める決勝弾となった。あの夏とは広陵高校3年時に1大会6本塁打の金字塔を打ち立てた2017年の甲子園だ。
「とにかく1試合1試合やるだけ。チームが勝てるように1番バッターとして引っ張っていけたら」
シーズン最終盤、チームは苦しい状況にあるが、発する言葉からはレギュラー選手としての自覚がにじむ。ここまでキャリアハイを大きく超える試合数、打席数を重ね、安打や本塁打、打点はすべて昨季までの通算成績を上回る。時間はかかった。遠回りもしたかもしれないが、あの夏から8年、ようやくプロの世界で確かな一歩を刻んでいる。
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中村は地元のスター候補として、坂倉将吾が高卒新人として一軍デビューした2017年のドラフトで高校生捕手として1位指名された。
プロ入り後は捕手としての課題を解消しきれなかったものの、打者としての素質はすぐに認められた。それでも一軍と二軍を行ったり来たり。背番号が22から96に変わり、捕手登録から外野手登録となった昨季は、開幕直後に得た一軍昇格のチャンスを掴みきれなかった。
生かせなかった一軍での打席
常に二軍降格の危機感と背中合わせの焦りが打席に現れた。様子見のような初球変化球に、真っすぐのタイミングで振りに行って空振り。頭の整理が付かないまま追い込まれ、最後はボールとなる変化球にバットが回るという打席を何度も繰り返した。自己最多の70打席に立ちながら、打率.145、1打点。本塁打は3年連続0。二軍では快音を響かせたが、一軍ではため息しかなかった。
「結果が出ていなかったので、やっぱり腹が立つ。もちろん打ちたいし、なんで打てないんだという思いもあった。それに『打てなかったら二軍だ』とか、全部マイナスに考えていました」
シーズン終了後の秋季練習、秋季キャンプでは新打撃フォームの方向性が定まらなかったものの、プレッシャーのかからない実戦では結果が残った。ただ、新シーズンへ向けた春季キャンプ、そして実戦に入っていくと打てなくなった。今年もか……という思いを自ら振り払うようにバットを振った。
「オープン戦でも結果が出ていなかったですし、二軍でも開幕してから打率が1割台だった。捨て身の覚悟ではないですけど、ガラッと変えてみようと。福地さん(福地寿樹二軍ヘッド兼打撃・走塁コーチ)と良太さん(新井良太二軍打撃コーチ)と話をしながら、一軍の投手に対して、いいアプローチをしようと考えました」
