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ようやく開花したカープのスター候補・中村奨成は7年間何に苦しみ何を得たのか?《1大会6本塁打の甲子園記録保持者》 

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前原淳

前原淳Jun Maehara

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photograph bySankei Shimbun

posted2025/09/15 11:02

ようやく開花したカープのスター候補・中村奨成は7年間何に苦しみ何を得たのか?《1大会6本塁打の甲子園記録保持者》<Number Web> photograph by Sankei Shimbun

本塁打を放ち、ベンチで祝福を受ける中村

 二軍では自分のバッティングができても、一軍ではバッティングをさせてもらえない。自分本位に追い求めるバッティングではなく、一軍投手のスピード、キレに対応するバッティング、つまり現実路線に舵を切る必要があった。バットの先だろうが根っこだろうが、詰まらされても泳がされても対応できるスタイルを模索した。

 高校時代から貫いた、バットを立てた構えから右肩で担ぐ構えに変え、オープンスタンスの角度も広げた。そして新打法を固めていく段階で、開幕早々に一軍昇格のチャンスを得た。今季は二軍でも結果を残せていなかったが、一軍に呼ばれたことはプラスだった。しばらくベンチを温める時間が長かったが、一軍レベルを常に肌で感じることができたことで打撃構築のイメージを膨らますことはできた。打撃練習では次第にきれいな回転をかけた打球が増え、新打法の手応えは日に日に強くなっていった。

 今季初スタメンとなった4月20日の阪神戦で2安打を放つと、1番で起用された同23日のヤクルト戦では猛打賞をマーク。早々に二軍へ逆戻りとなった昨季とは違い、今季は負傷離脱する7月16日まで一軍に帯同した。実戦復帰した8月1日の4日後には、一軍に求められるように昇格して「1番センター」を任された。

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「昨年までは結果がほしいと全部にがっついて、自分で苦しくなる打席が多かった。ただ、相手が崩しにくるのは当然。そこでどうするか。今季は打席ももらえているので、こっちががっついて崩れることだけは避けようと、割り切りを大事にするようになりました」

来季に向けた決意

 打席内での落ち着きが生まれたことは大きな変化だ。バッテリーとの駆け引きを磨き、たとえ試合で無安打に終わっても、凡打の内容が良ければ納得できる思考を得た。試合に出続けることで相手バッテリーの配球は変わり、マークが厳しくなっても大きな波がなく戦えていることに手ごたえを感じている。

 阪神の優勝が決まった9月、広島はクライマックスシリーズ争いから後退。打線を入れ替えながら戦う中で、中村は新人の佐々木泰とともに毎試合のようにスタメンに名を連ねている。それは逆転CSへの望みをつなげるだけでなく、来季以降の希望の光となる存在と期待されている証だ。

「自分のポジションを確立したい。今は1番センターで出してもらっていますけど、外野手もたくさんいる中での競争となる。今年だけでなく、来年も1番に名前が挙がるようにアピールするために、昨年からの経験を生かさないといけない」

 経験と自信を手に入れたことが8年目の飛躍につながった。確かな一歩を踏み出した中村にとって、これはスタートに過ぎない。まだまだ物足りない。球団やファン、そして自分自身が望む姿はまだはるかに高い。

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