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甲子園の風BACK NUMBER
広陵高校問題から考える“寮生活の落とし穴”「じつは大人が知らない“選手間のルール”がある」悪しき伝統の改善策は? プロ野球OB・今浪隆博の見解
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曹宇鉉Uhyon Cho
photograph byJIJI PRESS
posted2025/09/07 17:01
8月10日、甲子園出場辞退に関する記者会見で頭を下げる広陵の堀正和校長ら
じつは大人が知らない「選手間のルール」
――他方、「これはおかしいんじゃないか」と疑いを持ったとしても、高校生の場合、実際に行動に移すのはなかなか難しいと思います。やはり指導者が責任を持って取り組まなければいけない課題だと考えるべきでしょうか。
今浪 そうですね。チームリーダーやキャプテンがいたとしても、現場のトップは監督です。やっぱり大人が確認して、改善しなければいけない。じつは選手間の伝統やルールって、大人が理解していないこともいっぱいあるはずなんですよ。「野球部の伝統だから」と言って、なんとなく放任してしまっているところもある。定期的なヒアリングを通じて、認識していないことを知るところから始めたほうがいいですよね。問題が起きてから「知らなかった」では済まされない時代ですから。
「寮否定派」ではなく…現場で感じたこと
――最初の議論に立ち戻ると、今浪さんは動画のなかで寮ではなく「通い」を推奨していました。どちらも選択肢にある場合、あえて寮を選ぶ必要はない、と。
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今浪 はい。寮だと雑用などでどうしても時間的な拘束があるし、通いなら外部のコーチに指導を受けることもできる。ただこれは僕個人の考えであって、あくまでも「通いの強豪校」と「寮の強豪校」で迷っている質問者への答えとして「通いがいい」とお話ししました。やっぱり現実的に、高いレベルで野球を続けるためには寮しか選択肢がないような生徒もいますから。「寮に入りたくないから競技そのものをやめる」という選択はしてほしくないと思っています。
――必ずしも「寮否定派」ではないということですね。動画のなかでは、かつては問題だらけだった寮生活も現代では大幅に改善されている、といった発言もありました。
今浪 いま僕はスポーツメンタルコーチとしていろいろな組織、団体を見ているのですが、実際に関わるなかで「すごくいい寮だな」と思うところもたくさんあります。今回の件を受けて、野球部や寮生活の悪い部分ばかりがクローズアップされて、悪印象がついてしまうのはもったいないですよね。たとえば明治大学の野球部の環境も、僕がいた時代に比べて劇的によくなっていますから。
大前提として、暴力は許されない。それを生み出す理不尽な伝統も改められなければいけない。そのためには、やっぱり「確認と改善」しかない。寮生活や上下関係そのものが悪というよりも、伝統と現状をしっかり検証し、アップデートすることに尽きると思います。
<前編とあわせてお読みください>

